コラム 2015.04.01

「ハイブリット芝」でラグビーが変わる!?

「ハイブリット芝」でラグビーが変わる!?

 3月28日、大阪府吹田市の関西大学にて、この時期恒例の「日本ラグビー学会」第8回大会が開催された。午前中は、一般の研究発表。各研究者が15分ずつの発表をしていったのだが、筆者が聞いた中では、元神戸製鋼の吉田明さん(日本大学文理学部人文科学研究所)の「社会人ラグビーチームの競技力向上に有効な組織変革過程の検討」が興味深かった。低迷期を経て日本一になった神戸製鋼、サントリーを比較して両者に共通するものを探り、「自主性の確立」がチーム改革には特に重要であると結論付けた。

 午後は、特別講演とシンポジウム。シンポジウムは、「スポーツと体罰について」。スポーツの感性の部分に焦点をあてたものだった。その前の特別講演は、ラグビーマガジンでもおなじみのラグビー博士・小林深緑郎さんである。筆者が進行役を務め、「ワールドカップに向け、世界の動向を探る」と題して、今秋に開催される第8回ラグビーワールドカップ(RWC)を展望した。実は、4年前の大会の時も小林さんはここで講演している。

 4年ぶりに学会にやってきた小林さんは、関西大学の手提げ袋を持って現れた。実はこの日は、オープンキャンパスで学内は高校生たちであふれかえっていたのだが、なぜか小林さんも入試案内の資料をもらってきたのである。毎度、何かをしでかす人である。シンポジウムに出演するコメンテーター川村幸治さんに「なんで、持ってはるんですか、それ」と、軽く突っ込まれて、笑いをとっていた。

 講演は、シックスネーションズ(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、イタリア)、ザ・ラグビーチャンピオンシップ(ニュージーランド、南アフリカ、オーストラリア、アルゼンチン)に所属する、いわゆる「ティア1カントリー」について注目ポイントなどを語った。小林さんは、連載「トライライン」に今季のシックスネーションズの序盤を見たところで「イングランドが優勝する」と書いてしまったのに、アイルランドが優勝したことを軽くわびつつ、話を続けた。もちろん、小林さんの今秋注目は、アイルランドである。興味深い話が続いたが、参加者の関心が高かったのが、「ハイブリット芝」に関する話だった。

 小林さんは、「世界のメイン競技場が次々にハイブリッド芝になっている」と話した。「人工芝をベースに、天然芝を植えると、天然芝が人工芝に絡んで簡単には抜けなくなるようです。比率は人工芝が40%、天然芝が60%。これで年間40試合はできる、と書かれています」。イングランドのトゥイッケナム、ウェールズのミレニアムスタジアム、スコットランドのマレーフィールド、アイルランド・ダブリンのアヴィバスタジアム、これら有名競技場も現在「ハイブリット芝」を採用している。ちなみに、ニュージーランドのハイランダーズの本拠地フォーサイスバー・スタジアムもハイブリットだ。秋のRWCの決勝トーナメントは、3位決定戦を除いて、すべてミレニアムスタジアムとトゥイッケナムで行われる。

 ハイブリット芝にすると、スクラムで芝生が大きくめくれあがるようなこともなく、しっかりとスクラムも組めるし、ランニングラグビーにも適している。これが優勝争いにどんな影響を与えるのか興味深い。そして、ハイブリット芝は日本代表が戦いやすい環境とも言えるのである。しかし、日本がターゲットにしているスコットランド戦は天然芝のスタジアム。グラウンド面だけから言えば、「スコットランド有利ではないか」と小林さんは話す。

 面白いのは、ヨーロッパの各クラブがハイブリット芝、あるいは人工芝を採用し始めると、グラウンドコンディションが良くなり、常に柔らかいピッチだからこそ発達したFWの肉弾戦中心のヨーロッパ・スタイルが変貌する可能性があるということだ。ぐちゃぐちゃのグラウンドでの密集戦が少なくなり、クリアにボールが動かすことが主流になっていくのかもしれない。さて、近年は秩父宮ラグビー場の悪コンディションが再三指摘されているが、日本にもハイブリット芝の波が押し寄せるのか。各国のラグビースタイルにも影響を与える芝事情から、しばらく目が離せなくなりそうだ。

(文:村上晃一)

【筆者プロフィール】
村上晃一(むらかみ・こういち) ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年 4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーラン スの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に、「ラグ ビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。BS朝日「ラグビーウィークリー」にもコ メンテーターとして出演中。

(写真:ハイブリット芝を採用している聖地トゥイッケナム/Getty Images)

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