花園であったもう1つのナイスゲーム 大阪教員団×関西ドクターズ
高校ラグビー準決勝の後、花園第1グラウンドの天然芝の上で、もう1試合熱戦があったのをご存知ですか?
知る人ぞ知る大阪教員団(教員)対 関西ドクターズ(DR)です。
教員は主に競技や記録、DRは医務委員として大会を裏で支えています。その2つの組織が互いに労をねぎらい、優勝戦に向け最後の結束を固めるため、常に1月5日に試合を組んできました。2015年で41回目を迎えた定期戦です。
伝統ですな。
教員は白に胸元に黒の2本線、DRは濃緑と黒の段柄のジャージーで試合に臨みます。
教員は24人が参加。DRは仕事始めの月曜日と重なったため、開業医の多くは加われず14人でした。
正規の15人に足りず、あわや棄権か、と思いきや、DRは堂々と選手を借り受けに行きました。教員も「どうぞ」。
大会医務委員長として66人の医師をたばねる外山幸正さんは胸を張ります。
「これがラグビーのいいところや。足らんかったら相手から借りる。それでいいやん」
格好いい。
ウグイス嬢がつくのもお約束。
笑いの都・大阪らしく「本日のメインイベント」でアナウンスは始まります。場内に居残った身内約30人は大爆笑。もちろんメンバー発表もしっかりされました。
試合は午後4時過ぎに始まりました。15分ハーフです。
教員側から声が上がります。
「ええ加減なプレーしたら、即交代や」
すぐに返事があります。
「誰とですのん?そんなに走れるメンバーいまへんがな」
タッチラインから声援が飛びます。
「ヒガシみたいに頑張ってやー」
30分ほど前、ド・シャローの激しいディフェンスを仕掛けた尾道を12-40でうっちゃった東福岡にチームを見立てます。
それは無理やな。
両チームは60歳以上を示す赤パンツ、70歳以上の黄パンツがちらほら。ちなみに外山さんは赤。この人たちにはタックル厳禁です。ホールドのみ。でもこの人たちは本気で向かってきます。
タチが悪い。
まあ裂傷をおったら、選手自身がグラウンドサイドで麻酔なしで縫いますし、心臓が止まっても蘇生もできるんです。今すぐにでも総合病院が開けます。
この日の最年長はDRの72歳、土屋(ひじや)和之さん。大阪・東淀川区の医師会会長は汗をダラダラ流しながらニッコリ。
「楽しいし若返る。この試合を目標に正月返上で走ってます。試合の後は鶴橋で焼肉食べて帰るんや。あと10年は参加するつもりです」
ラグビーは究極のアンチ・エイジングですな。
教員はそのほとんどが体育の先生。SHは54歳の吉田聡さん(府立牧野高監督)。天理大で3回の大学選手権を経験しました。吉田さんのパスは世の高校生のお手本。引かず、持ち上げない。そのパスをもらう同級生SOの的確な指示で教員は前半1分からトライラッシュ。すると声がかかります。
「あのSO、ここと学校ではよう声を出すけど、家では無言らしいで」
それは恐妻家ってことですかー。家内安全のため名前は伏せときます。
試合は日ごろからフィットネスクラブ状態の教員が62-5で圧勝しました。
試合後はスタンド内の食堂で、ビールを飲みながらアフター・マッチ・ファンクションをします。
この日、最遠方からやってきたのはDRの宍田(ししだ)紀夫さん。沖縄県立八重山病院の小児科部長は、台湾の方が近い石垣島からやってきました。ラグビーを始めた府立四条畷高時代に知り合った奥さんが一緒です。
「帰省ついでに顔を出させてもらいました。楽しいです」
地域医療従事を志願して、14年前に南西の島々に渡った49歳は晴れやかでした。
もともと関西は大学での医学系ラグビーが盛んです。昨年の関西Dリーグ22チーム中7チーム、約3分の1が医学部でした。リーグとしては最も下のグレードですが、それでも15人を集め公式戦をしています。医学部に行ってまでラグビーをやる。
その心意気がいいよねー。
そして教員は1980年代にトップリーグの前身、関西社会人Aリーグに所属。神戸製鋼などと公式戦を戦いました。
お互い下地があっての定期戦なのです。
大会の現場レベルの長、総務委員長の天野寛之さん(府立摂津高監督、56歳)もブレザーを脱いで試合に出ました。
「ドクターとの親睦がメインやけど、ストレス解消に最適やね」
試合、そして自己紹介などが含まれたファンクションは笑いがあふれていました。
ラグビーって素晴らしい。
左端は全国高校大会総務委員長の天野寛之さん、中央はチーム監督の佐光義昭さん。
【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。