コラム 2014.11.25

関西学院大の「キング・カルロス」

関西学院大の「キング・カルロス」

 「キング・カルロス」の再来がいる。
 6戦全勝として5年ぶり10回目の関西大学Aリーグ優勝が見えた関西学院大学にである。
 「キング・カルロス」とはニュージーランド(NZ)代表の1FE(ファースト・ファイブ・エース、=SO)、カルロス・スペンサーにつけられた愛称。1975年生まれ。オークランド出身のスペンサーは、1990年代後半から2000年代前半のオールブラックスやスーパーラグビーのブルーズで、その天才的な超攻撃パフォーマンスを見せつけた。
 関西学大の「王様」は175センチ、85キロの2年生SOの清水晶大(あきひろ)である。ボールを持った動き出しは試合に君臨したスペンサーと重なる。
 11月23日、4勝1敗として逆転Vへ希望をつなげたい同志社大学を京都・宝が池球技場で26−14と破る。同大守備網を切り裂いた中心は清水だった。

 14−0の後半12分、NO8徳永祥尭の外側でボールをもらい、左サイドを疾走。約40メートルを走り切り、左中間インゴールに飛び込んだ。バッキングに戻る同大の快足WTB、松井千士に追いつかれなかった。
 7−0の前半39分にはCTB金尚浩(きむ・さんほ)とのループプレーを起点にLO原田陽平の5点を引き出した。
 後半6分にはパスダミーからのカットインで約30メートルをゲイン。2、3人ととばせる左右のロングパスやPKでのエリアを取る50メートル級のキックなど常に見せ場を作った。今季からリーグに新設されたマン・オブ・ザ・マッチを初受賞する。

 清水は2月18日と早生まれの19歳。まだあどけなさが残る笑顔を浮かべる。
 「2年生になってかなり自信がついてきました。自分の持ち味の攻めるラグビーができてきたんじゃないかな、と思います」
 走りやつなぎももちろんだが、その一番の成長はコンタクトにある。
 前半23分、ドロップアウトのキック捕球後、カウンターを選択。目の前に迫った同大LO山田有樹にぶちかましに行った。180センチ、92キロの山田に当たり負けしない。ボールを体の外側に置き、リサイクルを容易にさせる。フェイズの最後は、左手甲を骨折した徳田健太に代わり公式戦初先発となった3年生SHの山戸椋介のトライになった。

 昨年、京都成章高校から入学。1年生から朱と紺色のファースト・ジャージーに袖を通すも、シーズン中盤から先発を4年生の平山健太郎に奪われる。体の弱さが原因とした清水は肉体改造に着手する。
 「長い時は2時間半くらいウエイトトレーニングをしました。速さは落としたくないので、下半身は軽いおもりでのスピードトレーニング。逆に上半身は重い負荷をかけました」
 ベンチプレスのMAXは30キロ増の130キロになった。数値の上昇は自身の肉体への信頼を高めた。相手ボールのセットでFB高陽日(こう・やんいる)とポジションチェンジしていた昨年の姿はない。体を当てることが弱点ではなくなった。
 清水の持ち味の一つ、オフロードパスにアウトから駆け寄るCTBの鳥飼誠は話す。
 「本来前に出る力はあるのですが、ウエイトアップしてより奥に行けるようになった。倒れないからサポートする時間もできます。どんどんチャレンジしてくれるのは頼もしい」

 清水のはるか先を歩いたスペンサーのキャップ数は35。当時のNZの1FEにはキック、パスの正確なアンドリュー・マーテンズ(カンタベリー、キャップ70)、ディフェンシブなトニー・ブラウン(オタゴ、同18、現パナソニック・アドバイザー)がいた。スペンサーはリバースパス、チップキック、キレと速さを両立させたステップなどを武器にライバルらと競り、2003年の第5回ワールドカップに出場した。

 関西学大のヘッドコーチはスペンサーと同世代、同国籍、1967年生まれのアンドリュー・マコーミックである。日本代表のCTBとしてキャップ25を持つ愛称「アンガス」は清水の進歩にジョークを交える。
 「カルロスに似ている?そうね。そんな感じだね。彼は知らないと思うけど」
 1995年生まれの清水はスペンサーが活躍した時期は幼稚園から小学校の低学年だった。アンガスは続ける。
 「彼はまだまだ伸びるね。普通に行けば次のステージに上がる。ジャパン?そうなる可能性はあるし、そうなってほしい。インターナショナルのレベルは一つ弱いところがあってもダメね。彼は全体のバランスがいい。パスもうまいし、ディフェンスにもいける。今よりも体ができてくれば本当に楽しみよ」

 宝が池の第2試合は、戦前まで5戦全勝と首位を並走していた京都産業大学が立命館大学に15−28で敗れた。関西学大は11月30日のリーグ最終戦、京産大戦に勝つか引き分ければ関西王者に返り咲く。清水は言う。
 「リーグ優勝をあまり意識し過ぎないようにしたいです。意識し過ぎるとうまくいかないので。自分たちのラグビーをするだけです」
 自陣からでもキックを多用せず、積極的に展開する「関学スタイル」を貫くことを宣言した。それはすなわち清水に「キング・カルロス」の名が冠せられるゆえんでもある。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

(写真:関西学院大の司令塔、清水晶大/撮影:前島 進)

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