コラム 2014.10.30

兵庫県立兵庫工業高校 家系ラグビー、モール武器にベスト4狙う

兵庫県立兵庫工業高校 家系ラグビー、モール武器にベスト4狙う

 兵庫県立兵庫工業高校、愛称「ケンコー」の強みは「師」と仰ぐ監督、チームから教えてもらった強力モールである。
 兵庫工は10月26日、第94回全国高校大会県予選3回戦で県立武庫荘総合高校を59−7で下し、準々決勝に進出した。獲得9トライ中、前半の5つは約25メートルのロングドライブも含めすべてモール絡み。主将のNO8宇都宮羽(つばさ)はニッコリした。
「それに絶対の自信はあります」

 勝利を呼んだ前8人の塊りは奈良県立御所実業高校で身につけた。全国大会出場8回、準優勝2回を誇るチームに監督の百瀬達雄が足を運んだのは4年前の2010年11月。県予選敗退の翌日、面識のない御所実監督・竹田寛行に電話をかけ、面会を申し込んだ。
「生徒を勝たせてやれない自分が悔しかった。だから連絡をしました。御所は同じ公立、工業校やのになんで強いんや、とずーっと思っていましたから。竹田先生に強さの秘訣を教えてもらいたくなりました」
 竹田の感想にはユーモアが漂う。
「モモちゃん(百瀬)は熱心。一生懸命さが伝わってきた。同じ公立で頑張っているし、できるだけ応援してあげたくなった。今ではストーカーみたいな感じがしているけどね」

 御所実では同チームが得意とし、反復練習で習得できるモールを教えてもらう。未経験者ばかりの部員41人は強いバインドや細かい足のかきなどを身につけた。百瀬は話す。
「経験者が0のウチは技術面が劣る。結果的にフィジカルに特化しないと勝てない。それがモールだったのです」
 広い場所を必要としない密着プレーは、基本的には50メートル四方しかグラウンドを確保できない環境にも適った。

 同時にパックを強固にするためウエイト・トレーニングにも取り組んだ。毎日1時間、機具やバーベルなどと向かい合う。御所実や京都産業大学の体作りを担当するボディー・ビルダーの野沢正臣を月3回コーチとして招き、肉体を筋肉質に変えていく。
 さらに現在では一般的な食物摂取、兵庫工では「飯トレ」と呼ぶ「練習」で体を大きくさせる。週末は1日2.7キロの分量を食べきらないといけない。百瀬は振り返る。
「最初は1.5キロくらいでしたが、徐々に増やしていった。普通の練習よりこっちのほうが部員にはきついかもしれません」
 平日の練習後には捕食としておにぎりとプロテインを与えている。その経費は百瀬らの持ち出しや寄付で賄われている。

 ラグビー経験のある指導者3人も心強い。最年長40歳の百瀬と39歳の山本正樹は体育教員。百瀬は県立兵庫高校から京都教育大学で楕円球を追いかけた。山本は兵庫・六甲高校から筑波大学に進学。筑波ではPRとして公式戦にも出場した。工業科教員の林弘志は大阪電気通信大学高校から同大学に上がった。部員にきめ細かい指導ができるのも長所だ。
 3人は部員が活躍するシーンをつなげたDVDを作り、新入生への部活紹介の時間に流すなど、部員獲得に余念はない。
 兵庫工への竹田の評価は高い。
「チームを見ていても力はついてきている。モモちゃんが根気強く手をかけているのがわかる。うれしい限り。私立に負けないチームを作り上げてほしいです」
 県内では報徳学園と関西学院高等部の私立2強状態がここ10年ほど続いている。竹田は現状に風穴を開けることを望んでいる。

 兵庫工の学校創立は1902年(明治35年)。今年で創立113年目を迎える。ラグビー部創部は1990年と新しい。全国大会予選の最高位は日本代表LOの伊藤鐘史(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)が3年時の1998年度、第78回大会での4強だ。キャップ26を持ち、11月のマオリ・オールブラックス戦に選ばれた伊藤は後輩たちの進撃に声を弾ませる。
「一時は部員が減った話も聞いていて、合同はさみしいなあ、と思っていたので、是非いい結果を出してほしい。母校は自分の原点でもあるし、そこが強い、というニュースが聞けると感じるものはあります」

 百瀬は目標を現実的に「ベスト4」に設定する。次戦は11月3日(月・祝)。その4強をかけて尼崎市立尼崎高校と対戦する(JR西日本鷹取グラウンド、午後2時キックオフ)。体育科があり県全域から進学可能な市尼崎には10人近い経験者がいる。1月の新人戦では3回戦で10−38、春の県大会はベスト8で10−43と連敗した。百瀬は竹田に教えてもらった言葉、モールを「家」(いえ)に例える。
「試合中、困った事が起こったり、しんどくなったら原点に帰るんです。戻る場所、それが家。ウチにはそのプレーがありますから」
 横浜で名を馳せた一家で作る「家系ラーメン」ならぬ「家系ラグビー」。身内として遇してくれた御所実から授けられた武器で「3度目の正直」を実現させ、同校2回目となる高みへの到達を目指す。

(文:鎮 勝也)

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試合後のミーティングで選手たちに語る兵庫工の百瀬監督

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

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