国内 2014.10.27

日本IBM今季初勝利。シアワセ感じる36歳ふたりの笑顔。

日本IBM今季初勝利。シアワセ感じる36歳ふたりの笑顔。

IBM

タックルする仲間のサポートに入ろうとするベテラン2人。
中央に立っているうちの右がPR下山貴弘で、左がLO木曽一(撮影/松本かおり)

 8年前なら、ともにトップリーグ(2006年シーズンが同リーグでの最後の対戦)。何千人のファンを集めるカードだった。日本IBM×セコム。スター選手を集めるわけでなく、地道な日々を重ねて日本最高峰リーグで存在感を示したこともある両チームが10月26日、トップイーストリーグ(ディビジョン1)で戦った。昨年まで、公式戦での両者の対決は13戦。IBMが7勝、セコムが6勝とほぼ互角だった。好ゲームを期待した熱心なファンが、秩父宮に足を運んだ。

 12時にキックオフとなった試合は前半12分、IBMの先制トライで動き始めた。セコム陣に攻め入ったIBM。右中間から放たれたCTB高梨達也のキックパスを左タッチライン際で受けたのは、長身のLO木曽一だ。続く22分、30分、36分には、ターンオーバーからトライを追加する。パスカット。ボール争奪戦後。スクラムで圧力を受けた後。セコムにとっては、攻め込んでからの逆襲であったり、好タックル後のスクラムから崩されたり、大きなダメージを受けるものばかりだった。

 前半は28-0。IBMが大きくリードした試合は、後半も同様の流れが続いた。開始2分に自陣から攻めるセコム。IBMの好タックルが決まる。ターンオーバー。追加のトライ、ゴールが決まり、差は35-0に開いた。5分にはWTB横山健一がインゴール左中間に駆け込む(ゴールも決まり42-0)。さらに2トライを追加したIBMが56-0と快勝した。よく攻めたセコムだったが攻守の切り替えがうまくいかず、実力差以上にスコアの開きが大きくなった80分だった。

 今シーズンからクラブ化して活動を続けている日本IBMにとっては、今季5戦目で初めての勝利。OBや会社関係者も多く訪れたこの日は、嬉しい一日となった。また、今季からチームに加わった選手たちにとっても、新天地での勝利の味は格別。試合後、スタジアムから出て来る表情は笑顔、笑顔だった。

 先発で3番を背負い、スクラムで押し、ブレイクダウンで必死に頭を突っ込んだ下山貴弘は、吹き出す汗を拭きつつ「気持ちいいですね」と目尻を下げた。
 帝京大学出身。NTTコミュニケーションズでプレーを続けていた下山は、トップレベルでのプレーを2010年度シーズン限りで終え、昨季までの3年間は関東社会人2部のNTT日比谷というチームで楽しむラグビーを続けていた。週イチの練習。趣味の食べ歩きでアブラまみれになる生活(ブログ『SHIMOYAMA大陸』は大人気= http://ameblo.jp/shimoyaman2009/)。それはそれで楽しかった。
 しかし、今年の3月だった。楕円球つながりの友人と話している際に、IBMクラブ化の話が出た。
「やれるんじゃないの?」
 仲間からそんな言葉が出たけれど、最初は「ソノ気」にならなかった。でも、誘われるうちに次第に心が動き、体を動かし始める。やがて、対戦相手だったIBMの門を叩く。「最初はヘロヘロ」だった。だけど、長年積み重ね、体のどこかに残っていたものがあったから以前の感覚を取り戻すのに長い時間はかからなかった。
 現在、平日の練習日は火曜日と木曜日。両日は仕事をうまく片付け、千葉・八千代台のグラウンドに駆けつける。19時45分から21時30分の練習時間に集中。今季開幕からの5戦すべてに出場し、そのうち4試合は先発だった。
 36歳のベテランは言った。
「ホント、いまの生活が楽しいんですよ。練習して、風呂に入って、飲みに行って…そして試合。みんなで時間を過ごす。チームになる。昔は当たり前に思っていた時間をあらためていま実現できていて、充実しているんです」
「昭和のラグビー文化を伝えていきたい(笑)」と言うプロップは、きっとこの試合後も、たくさん呑み、食った。

 先制トライを挙げたLO木曽も笑顔だった。日本代表キャップ32を持つベテラン。昨季まで所属したNTTコミュニケーションズから、今季活躍の場をこちらに移した。
 下山同様、仕事を自分の裁量で調整し、日比谷のオフィスから平日の練習に向かう。ヤマハ、NTTコムと、トップリーグチームに所属しているときには当たり前だった、なんでも揃っている環境はいまはない。しかし、その頃と変わらぬ充実、あるいは当時以上のラグビーへの愛。それらを感じている自分がいる。
「高校(大阪・三島)、大学(立命館)時もそうだったな、と懐かしいですね。自分で時間を作ったりすることに、あらためて充実を感じています。この環境を知っている、知らないでは、強さが違うかな、と思ったりします。もう何があっても(どんな状況でも)ラグビーをやり続けられるな、って(笑)」
 トップリーガーだった時代にはなかった地方への出張も、いまはある。出張先で時間を作り、チームが提携しているジムで汗を流すことも。ラグビーへのアプローチの変化は、ラグビーへの愛をあらためて深くしてくれた気がしている。
「クラブ化していろんなバックグラウンドを持った人がいるでしょう。それがまた楽しいんです。外国人選手の中には、フルーツ工場で夜中に働き、昼間に寝て、それから練習に来る人もいる。そんな仲間とラグビーをやること、同じチームにいること…シアワセを感じています」

 ラグビーをやれているだけで嬉しい。本当は勝てなくても楽しいんだけど、やっぱり勝てたらもっと楽しい。木曽も11月7日には下山と同じ36歳になるけれど、学生時代に戻ったような気持ちになっている。

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