連勝止まった神戸製鋼 後味よくない同点ゲームで見えたもの
スコアは24−24の引き分けながら、選手、首脳陣の表情には勝敗がくっきりと表れた。追いつかれた神戸製鋼は敗者の暗さ、試合終了寸前、SO文字隆也の決勝DGは外れたもののトヨタ自動車は勝者の明るさだった。
第17回アジア大会で約3週間中断したトップリーグは11日、第6節が大阪・近鉄花園ラグビー場であり、プールB首位の神鋼がトヨタに開幕からの連勝を5でストップさせられた。それでも引き分けの勝点2を積み上げ、25として、11月28日に開幕するセカンドステージでプールの上位各4チームで構成されるAグループ入りを決めた。
神鋼は後半22分、WTB今村雄太のトライとゴールキックで24−14と10点差にしてから崩れる。1トライ(ゴール成功)とPGを許した。ゲームキャプテンのLO伊藤鐘史の顔はこわばる。
「ディフェンスが見てしまいました。10点リードで油断? それはあったかもしれない」
トヨタは負けられなかった。試合前は勝点16の4位。セカンドステージはギリギリA組で戦える位置も、5位・近鉄との勝点差はわずか1。ノーポイントなら圏外になる可能性もあった。神戸は勝点23、2位・サントリーとの差は5。どんな形でもポイントさえ加えれば、ほぼA組入りは決定する。この一戦にかける微妙な温度差はあった。
戦いにかける思いの丈の違いに、後半20分過ぎてからの疲労が加わる。神鋼の、特にディフェンスの足は止まった。
今季、47歳のギャリー・ゴールド ヘッドコーチ(HC)が就任。イングランド・プレミアシップ、ニューカッスル・ファルコンズをわずか3か月で2部降格の危機から救った「再建屋」の風格漂う南アフリカ人が神鋼に落とし込んだ守りは複雑ではない。
基本的にはポスト、フローターと呼ばれるラックサイドに立つ人間が飛び出し、内側に呼応するようにライン全体が上がって圧力をかける。システムとしての目新しさはない。ゴールドHCの尋常ならざる資質は、その決まりを徹底させるとともに、何より信賞必罰の姿勢を崩さず、チームを常に活性化させるところにある。入社1年目。大阪体育大学出身のHO長崎健太郎は話す。
「僕なんかも普通にBチームで使ってくれました。しかし1試合でもよくなければ、すぐに外される。理由を聞きに行けば、『ここが悪い』と指摘してくれる。だから欠けている部分が明確になります。とてもやりやすい」
ただし、この日はそのディフェンス・システムが崩壊しかけた。疲れが増せば、前に出られず、圧をかけられない。必然的にトヨタに食いこまれる。ゴールドHCに普段の温和な笑顔はない。
「結果には失望したが、トヨタのパフォーマンスがすごくよかった」
神鋼のスタミナ不足だけではない。トヨタのバテなかった原因はきつい体力強化練習にある。日本代表キャップ43を誇るLO北川俊澄は笑みを浮かべて話す。
「具体的な内容は話せませんが、中断期間の3週間もふくめ、シーズン中でも走り込みなどをかなりやった。ウエイトの数値なんかはこの時期でも上がっています」
優勝はトップリーグの前身、全国社会人大会5回、日本選手権3回。番狂わせの「ジャイアント・キリング」とは呼ばせない歴史を持つ。ゲームキャプテンをつとめたSO文字のコントロールされたキックやパス。帝京大学出身のルーキーながらFBの正位置を確保した竹田宜純のコンタクトの強さは目を引く。そのチームが地味にしんどいことをやり出すと首位チームと遜色ないレベルには来る。
現役時代はCTBとして多くの熱戦をトヨタと繰り広げた神鋼GM・平尾誠二は評する。
「決して悪くないチームよ。サントリー相手に負けたけど3点差(8月30日、10−13)。ウチはよく引き分けに持ち込んだ」
神鋼よりも、トヨタの意地と体力が光った。
後味のよくない同点ゲームで、8,177人の観衆を沸かせたのは京都産業大学出身の1年目、WTB山下楽平だ。10−14の後半12分、相手FLジャーン・デイセルのオフロードパスをキャッチャーとのわずかな隙に入ってインターセプト。約40メートルを走り切り、トライを挙げた。
「狙ってはいません。パスされるといやなので、放らさないようにした結果です」
今月2日にあったアジア大会決勝(7人制)には先発。24−12と香港を下す原動力になり金メダルを手にした。「いい経験ができました」
近鉄でスクラムコーチとアナリストを担当する阿部仁はライバルチームの新人WTBの長所を分析する。近鉄は8月30日、神鋼に3−26で敗れている。
「センスがすごくいい。難しいバウンドのキックボールを処理できる。普通の選手ならもたつくところでも彼は平然とやる」
50メートル走の自己申告では「6秒前半」の脚力だけではない。生まれながらのボールに対する嗅覚も備わっている。
ゴールドHCは次を見る。
「前半つけられていた11点差をひっくり返したことをポジティブに考えたい」
ファーストステージ最終戦は19日、プール3位、勝点22のキヤノンが相手だ。すっきりと決勝リーグに進むためにも、この苦しみを生かしたい。
<ジャパンラグビー トップリーグ 2014−2015 ファーストステージ第6節>
【関西エリア試合結果】
■大阪・近鉄花園ラグビー場
・神戸製鋼コベルコスティーラーズ△ 24−24 △トヨタ自動車ヴェルブリッツ(前半 3−14)
・近鉄ライナーズ● 30−31 ○サントリーサンゴリアス(前半 10−10)
■富山・富山県総合運動公園陸上競技場
・NTTコミュニケーションズシャイニングアークス○ 29−26 ●ヤマハ発動機ジュビロ(前半 15−21)
【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社、14年10月発売予定)がある。