コラム 2014.09.25

京都市立藤森中学校 天然芝の“ええ環境”でレベル3割増し

京都市立藤森中学校 天然芝の“ええ環境”でレベル3割増し

 京都市の南側、伏見区にある市立藤森(ふじのもり)中学校、通称「フジチュー」のグラウンドには青々とした天然芝が広がる。
 公立中学では極めて珍しい光景だ。
 ラグビー部部長、藤谷徹(ひとし)は言う。
「バスケットボールは土の上で、柔道は床の上でやらんでしょう?ラグビーにはやっぱり芝生やろ、とずっと思ってました」
 体育館の寄木、道場の畳…。他のスポーツにはプレーするにふさわしい地所が用意されている。社会科教諭でもある部活動責任者は4年前、楕円球にもその場所を与えた。

 藤谷は学校を説得。体育の授業での使用を前提に市教育委員会が推進する「小、中学校芝化第11期モデル校」に選んでもらう。2010年9月、土のグラウンドの一部、縦75、横50メートル、約3800平方メートルが呼吸をするふかふかのグリーンに変わった。ラグビー場半面の大きさは流行の人工芝ではない。夏の猛暑でも足裏は焼けつかず、クッション性も高い。
 本物の「ピッチ」では3学年計52人の中学生が迷わずタックルに入る。起き上っても皮膚は裂けず、血も流れない。「ハンバーグ」と呼ばれたセービング時に尻と太ももの間にできた大きな円形の擦り傷は過去の遺物。試合出場停止に至る危険な脳震盪(のうしんとう)もまず起きない。
 サッカー部や野球部との共用なので、毎日は使えない。夏場、約2か月続く冬芝の養生期間も使用禁止になる。それでも主将のFW高木亮平(3年)は目を輝かせる。
「土よりも全然いい。コンタクトしてもケガをしません。思い切ってプレーができます」
 藤谷は話す。
「ラグビーのレベルは3割増し。砂の上では見られへんプレーをしてくれます。楽しかったら質は上がるし、練習も休まんようになる」

 市内では22校に芝が植えられているが、中学ではこの藤森1校。広さは一番である。市教委と連携するNPO法人「芝生スクール京都」のボランティアの助けを借りながら、生徒たちが種まき、散水、草引きなどを手伝いコンディションを維持している。
 モデル校に選ばれる前、藤谷は自費で鳥取県に行き芝の植え付けを学んだ。帰京後、実践するものの、すべてを枯らした経験もある。決定後もダンプやトラクターを引っ張ってきて土壌改良を手伝った。思考錯誤を繰り返した中から他者への感謝が生まれる。
「ありがたいことです。一人じゃとてもできんですね。学校の同意はもちろん、NPOや生徒も含めたいろんな人の援助がないと」

 関東ローム層の赤土とは違う。火山がなく、河川の多い関西特有の白い砂の上に浮かび上がる緑の一角は持主だけで独占しない。伏見、凌風、洛西中学校などとの合同練習は頻繁に開かれる。放課後の1時間30分の練習後は、地元の伏見ラグビースクールに貸し出したりもする。学校には照明設備があるからだ。
 藤谷は理由を説明する。
「京都のラグビーを発展させたい。みんなにええもんを提供して、ええ環境でやらせてあげたいやないですか」

 1967年生まれの藤谷は47歳。市立下鴨中学校でラグビーを始め、東山高校から龍谷大学に進んだ生粋の都人(みやこびと)だ。身体能力の高いPRとして、大学4年時の1989年には龍谷大を初の関西大学Aリーグに昇格させた。現在はOB会副会長をつとめ、Bリーグに低迷する母校復活の後押しもする。2007年4月、西京極中学校から藤森中に赴任。今年で在校8年目を迎えた。
 ラグビー部は1964年に創部され、今年創部51年目になる。主なOBには日本代表キャップ25を持つSH吉田朋生(東海大仰星高校 → 東海大学 → 東芝)がいる。

 藤森中は藤谷が駆け回って作り上げた天然芝のお蔭で強い。2月の市新人戦決勝では26−22で伏見中を破り初優勝。5月の市春季大会決勝では21−35でリベンジされた。伏見中は9月の第5回全国中学生大会で初優勝。その結果から判断すれば藤森中も全国トップの力を有する。その伏見中とは3年生にとって最後の大会となる10月の市秋季大会で再戦する可能性が高い。
 主将の高木は表情を引き締める。
「次は勝ちたいです。自分たちの力を試合でしっかりと発揮できるのは、この芝が絡んでいると思います」

 藤谷は天然芝グラウンド造成を総括する。
「しんどいけどできんことやない。やったことのない人たちからは『大変でしょ?』って言われます。でもぼくたちはやっている」
 まずは情熱、知恵、そして行動力。お金や条件は先に来ない。「フジチュー」の芝生はラグビーマンに必須の資質を示している。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社、14年10月発売予定)がある。

(写真提供:京都市立藤森中学校ラグビー部 部長・藤谷徹先生)

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