コラム 2014.09.16

神戸製鋼FB井口剛志 ポジション確保への意気込みと好調チームを語る

神戸製鋼FB井口剛志 ポジション確保への意気込みと好調チームを語る

 トップリーグ・ファーストステージ第4節は、関西エリアで2試合が行われた。関西チーム同士の対戦は、山口県の維新百年記念陸上競技場で行われた、NTTドコモレッドハリケーンズ×神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦である。

 最終的には神戸製鋼が勝利したのだが、一時は、29-0とリードしながら、後半14分から23分の間に3トライを奪われるなど、課題の残る試合内容だった。最後尾からチームメイトのタックルを見ていたFB井口剛志は、こう話す。
「みんなのタックルが決まらなくなった。後ろから見ていて、どこをブレイクされても不思議はなかった。今季初めてのことでしたね。ドコモの攻めも上手かったと思います。トップリーグのチームはどこも侮れないです」

 それでもなんとか4連勝し、プールBの首位の座をキープした。井口剛志は、4戦連続でフル出場を果たしている。BKでは、WTB中濱寛造と2人だけがフル出場だ。中濱は昨季3試合の出場があるが、井口は1試合、しかも9分だけの出場だった。チーム加入3年目にして、どんな変化があったのか。
「実は個人的には何も変わっていないのです。体重も大きく違わない。(過去2年間は)自分の良さを見失っていました。メンバーに選んでもらえなくて、たまにチャンスをもらっても、何をすればいいかわからず不安でいっぱいでした」

 京都市立伏見工業高校ではキャプテンとして全国準優勝、早稲田大学でも1年生から公式戦に出場し、大きなステップで相手をかわし、するすると抜け出すランニングで、いつもチームの中心にいた。高校、大学ともに伝統ある強豪校で、プレースタイルもチームの約束事も明確だった。その中で力を発揮するのは楽だった。しかし、神戸製鋼は大きく言えば、個人技を軸に試合を組み立てるチームだ。「さあ、お前の技を見せてこい!」、そう送り出されても、戸惑っていたということだろう。

 今季は、南アフリカ代表のアシスタントコーチも務めたギャリー・ゴールド氏がヘッドコーチに就任し、練習や試合で各選手が何をすべきかをわかりやすく提示する。それは、言葉が通じないからこその念入りなコミュニケーションなのかもしれないが、それが功を奏し、選手たちが迷いなく動いているのは確かだ。「各選手の長所を褒め、それが試合に生きるように落とし込んでくれています」。今季、若い選手たちがのびのびと力を発揮する理由である。

 井口に求められているのは、神戸製鋼の強力FWを前に出すことだ。一対一の局面で相手をかわす得意のスキルを生かして前進し、大きなキックで地域を獲得するのだ。
「ギャリーさんと一緒に今年からチームに加わったBK担当のアシスタントコーチ、デイビッド・ウィリアムスさんが、すごくわかりやすい。練習が楽しいです。ギャリーさんは、練習中怖いのですが、ウィリアムスさんは諭すような感じで教えてくれる。このバランスも絶妙です」
 
 FBとしてポジションを確保した感があるが、当人は緊張感ある日々を送っている。「必死です。高校、大学の頃とはプレーしている感覚がまったく違います。いつメンバーを外されてもおかしくない。以前のようにプレーできるようになるには、場数を踏むしかないのかなと思っています」。クレイグ・ウイング、ジャック・フーリーなど、怪我で出遅れている選手が戻ってくれば編成も変わるだろう。FBでプレーできる選手は多く、安泰ではない。しかし、井口には他の選手にない大きなステップがある。長所を思う存分生かしてフィールドを駆け回るしかない。

「今後も、ちょっとしたことで勝敗が変わる試合が続くと思います。ミスが続けばそれを断ち切る、チャンスではトライを獲りきる、そういう意味で安定感あるプレーをしたいですね」

(文・村上晃一)
<ジャパンラグビー トップリーグ 2014-2015 ファーストステージ第4節>
【関西エリア試合結果】

■三重・三重県営鈴鹿スポーツガーデンサッカー・ラグビー場
・豊田自動織機シャトルズ● 5-54 ○パナソニック ワイルドナイツ(前半 5-33)

■山口・維新百年記念公園陸上競技場
・NTTドコモレッドハリケーンズ● 26-36 ○神戸製鋼コベルコスティーラーズ(前半 0-15)

【筆者プロフィール】
村上晃一(むらかみ・こういち) ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に、「ラグビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。BS朝日ラグビーウィークリーにもコメンテーターとして出演中。

(写真:神戸製鋼のFB井口剛志)

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