コラム 2014.09.08

日本最高峰に挑む小さな新人司令塔 NTTドコモ 小樋山樹

日本最高峰に挑む小さな新人司令塔 NTTドコモ 小樋山樹

 自分にとっては高い山にどうしても登りたかった。一度はケリをつけた欲求を抑えきれない。退社という代償は払ったが、その山の麓(ふもと)には行きつく。

 NTTドコモレッドハリケーンズのSO小樋山樹(しげる)。10月で25歳になる新人である。

 170センチと高校生並みに小柄な司令塔はトップリーグデビューを果たした。9月6日(土)、大阪・キンチョウスタジアムでのトヨタ自動車ヴェルブリッツ戦で先発する。
「試合では緊張はありませんでした。火曜日のメンバー発表で名前を呼ばれた時のほうが緊張しました」

 午後7時開始のナイター。カクテル光線で大粒の雨滴が視認できる悪コンディションをものともしない。
 前半29分には乱戦の敵陣ゴール前中央からカットイン。マークに来たLO北川俊澄を外側に置き去りにしてインゴールにダイブした。12-14とする追撃のチーム2本目のトライは、本人にとって公式戦初になった。
「北川さんが内からわいてきたので、思い切ってそっちに切ったら抜けました」
 大雨の中、バックスタンドに陣取り、チームカラーの赤いポンチョを着たサポーターからはエールが飛ぶ。
「いいぞー、いいぞー、コヒヤマー。ありがとー」

 ただ小樋山の5点は勝利につながらない。19-31。開幕3連敗を喫する。昨季15位と6位の地力の差は埋まらなかった。19-21で始まった後半は、わずか2回しかトヨタ22メートル陣内に侵入できなかった。
「SOはチームを勝たせないとダメです」
 色黒の端正な顔はほころばない。

 今年3月までは下部組織、トップイーストDivision1所属の栗田工業ウォーターガッシュに籍があった。トップリーグでプレーする夢を諦めきれず2年で職を辞する。東京と大阪であった2回の合同トライアウトへの参加後、7月にドコモから受け入れ連絡がある。リーグ規約による8月31日の日本人最終登録に間に合い、チームの一員となった。
「助けてくれた人々にとても感謝しています」

 ラグビーを始めたのは4歳。小6まで大阪・茨木ラグビースクール、中3までは茨木市立西陵中でプレーした。関西学院高等部では高校日本代表にも選ばれ、’2007年のオーストラリア遠征に参加している。関西学院大学ではFBなどで公式戦出場するも、体の小ささが原因でトップリーグから声はかからなかった。

 しかし、この日の試合、肉体的ハンディを感じさせない。
 ファーストプレーはタックル。前半1分、タテに来た183センチ、94キロのCTBデレック・カーペンターのヒザ下へ勇敢に飛び込む。後半、頭部裂傷を負いながらグラウンドを離れなかった。雨でボールが滑る不利な条件の中でも、長いスクリューパスは利き手ではない左でも捕球者の身体前面にコントロールされた。大きなパスミスはない。

 あるプロ野球球団で新人選手採用の最終責任を持つスカウト部長は話す。
「そりゃプロは体が大きい選手を獲りたい。骨格が大きく、筋肉量が多い分、化ける要素、つまり将来性が感じられるからね。でもその縛りで人材を探すと限られてしまうんだよ。だって基本的に日本人は小さいんだもの。その上、サッカーなんかのほかのスポーツにも選手は流れる。そんな限られた環境の中で、小さくてもきらっと光るダイヤの原石を探すのが本物のスカウトの仕事なんだよな。大型選手は誰の目にもつくんだからさ」
 小樋山は最上級のレベルでも対面の文字(もんじ)隆也とそん色ない動きを見せた。

 ドコモの試合直前にリコーブラックラムズを28-23で破った近鉄ライナーズ監督、前田隆介は言う。
「小さい選手がラグビーをすることは仲間や見ている人に勇気を与える。チームは違うが小樋山君には頑張ってほしいですね」
 前田も158センチながらSHとして早大や近鉄でレギュラーを勝ち取った。ボールに手をかけた瞬間に放るパスは、引いたり、持ち上げたりしなければ投げられない多くのSHにとっては今も素晴らしいテキストになる。

 ただ小樋山は本来のスターターではない。正SOの茂木(もてぎ)大輔のケガで好機が巡ってきた。本人は立場を理解している。
「まずはレギュラーにならないと。今日はFWコントロールもできなかったし、キックを使ったエリア・マネジメントもイマイチでした。タックルももっと磨かなくては。体の小さい自分は狙われますから」
 課題は伸びしろにつながる。日本最高峰でプレーできたよろこびを噛みしめ、小樋山は生まれ育った大阪の地で成長を続ける。

(文:鎮 勝也)

<ジャパンラグビー トップリーグ 2014-2015 ファーストステージ第3節>
【関西エリア試合結果】

■静岡・ヤマハスタジアム(磐田)
・ヤマハ発動機ジュビロ 9-14 パナソニック ワイルドナイツ(前半6-11)

■大阪・キンチョウスタジアム
・近鉄ライナーズ 28-23 リコーブラックラムズ(前半16-13)
・NTTドコモレッドハリケーンズ 19-31 トヨタ自動車ヴェルブリッツ(前半19-21)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社、14年10月発売予定)がある。

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