オドリスコルがグレーガン抜き世界新記録樹立! 引退前ホームラストで躍動
(Photo:2014 British Lions Ltd)
アイルランドの英雄、CTBブライアン・オドリスコル(35歳)が、代表ジャージーを着てプレーする最後のホームゲームでテストマッチ最多出場の世界新記録を樹立した。2014年3月8日、地元ダブリンのアビバスタジアムで行われたイタリア代表戦(シックスネーションズ)に先発出場し、140キャップ目を獲得。アイルランド代表として132キャップ、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズで8キャップ、約15年間で積み上げてきた大偉業だ。サントリーサンゴリアスでも活躍した元オーストラリア代表SHのジョージ・グレーガンが持つ139キャップを抜いた。
勇敢で威厳たっぷりの漢だが、ときにはベビーフェイスの笑顔でも女性を魅了し、「アイルランドで最もセクシーな男」と呼ばれた。気品漂うジェントルマン。
のちに数々の大記録を打ち立てる偉大なそのラグビーマンは、総合診療医の両親のもとに生まれた。ラグビーを始める前は、アイルランドの国技ともいわれるゲーリックフットボールに親しみ、楕円球の虜になってからは頭角を現すのは早かった。
1998年、U19代表として世界大会優勝。翌年にはシニアのアイルランド代表に招集され、20歳でテストマッチデビューを果たした(1999年6月のオーストラリア戦)。同年秋のワールドカップにも出場し、初戦のアメリカ戦で記念すべき初トライを挙げている。
2000年のシックスネーションズ(欧州6か国対抗戦)では、フランス戦で3トライを獲得し、勝利に貢献。アイルランドがパリで勝ったのは28年ぶりで、ブライアン・オドリスコル、愛称「BOD」は一躍脚光を浴びた。
国民は、若きスーパースターの出現に興奮した。アメリカの国家的モットーであり、アメリカの紙幣や硬貨にも刻まれている有名なフレーズ『In God We Trust(我々は神を信じる)』をまねし、サポーターのなかには『In BOD We Trust(我々はBODを信じる)』と書かれたTシャツを着る者が現れたという。BODの快進撃は止まらず、やがてリーダーとしての素質も開花させていった。
2002年11月のオーストラリア戦で、初めてアイルランド代表の主将を任された。当時、23歳。闘志あふれるアイリッシュを長きにわたり牽引してきたキース・ウッドが2003年ワールドカップ終了を機に引退すると、オドリスコルのキャプテンとしてのキャリアが本格的に始まる。2014年3月9日現在、アイルランド代表として132キャップが歴代最多なら、主将として83試合出場も前人未到。
2009年、アイルランド代表にとって61年ぶりとなるシックスネーションズ(ファイブネーションズを含む)全勝優勝を果たし、ワールドカップでは栄冠を手にすることはできなかったが、4大会(1999、2003、2007、2011)の計17試合に出場した。
活躍の場はアイルランド代表だけにとどまらず、4年に一度結成されるドリームチーム「ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ」には4回(2001、2005、2009、2013)選出。2005年のニュージーランド遠征では、アイルランド代表選手としては22年ぶりとなるライオンズ主将に抜擢された。不運にも、オールブラックスとの第1戦で、敵将のCTBタナ・ウマガとHOケヴィン・メアラムから激しいダブルタックルを見舞われ、肩を痛めてチームから早々に離脱するという苦い経験をしたが、赤いジャージーのオドリスコルは、百獣の王・ライオンにふさわしい威光を放った。
イングランド代表で主将を務めた往年の名選手ウィル・カーリングは、オドリスコルを「バランスがよく、走力、強さ、アタッキングスキル、ディフェンス力、どれをとっても超一級品」と評した。自分にディフェンダーを引き付け、周りを生かすプレーにも円熟味が光る。ラインの読みも鋭く、ディフェンスをずらして抜き去るトライもまた、観客を魅了する。
アイルランド代表として奪ったトライ数は46本で同国史上最多。その内2本は、2000年11月11日の日本代表戦で記録している。過去3度(2006、2007、2009)大会最優秀選手に輝いたシックスネーションズでも記録を樹立し、2011年3月19日のイングランド戦で奪った大会通算25本目のトライで、78年前にスコットランド代表のWTBイアン・スミスがマークした大会最多トライ記録(ファイブネーションズを含む)を塗り替えた。昨年2月のウエールズ戦でも1トライを挙げ、記録を更新している。
世界で最も権威あるラグビー専門誌のひとつである英『ラグビーワールド』が、「2000年代に入ってからの10年間で、世界最高の選手」と絶賛したのもうなずける。
テストマッチ通算140試合出場の世界記録を樹立した2014年3月8日のイタリア戦で、オドリスコルは鋭いランと巧みなパスで3トライを演出し、マン・オブ・ザマッチに選ばれた。
試合後のヒーローインタビューでは、スタジアム中で「ワン・モア・イヤー」の大合唱。実は、今シーズン限りでナショナルチームから退くことを決めている。2015年ラグビーワールドカップまであと約1年半だが、英雄はその大きな背中を見せて、まもなく後進に道を譲る。
もし、いつか彼が代表復帰を表明しても誰も批判しないだろう。だがおそらく、アイルランド代表のジャージーを着たオドリスコルが見られるのは、来週の現地時間15日にスタッド・ドゥ・フランス(パリ郊外)で行われるフランス代表戦が最後となる。アイルランド代表にとって5年ぶりのシックスネーションズ優勝を遂げ、有終の美を飾れるか、注目が集まる。
【Brian O’Driscol】
・ポジション: CTB
・生年月日: 1979年1月21日(35歳)
・出身地: ダブリン(アイルランド)
・身長: 178cm 体重: 93kg
・所属チーム: レンスター(アイルランド)
<国代表>
・テストデビュー: 1999年6月12日(対オーストラリア)
・CAP: 140キャップ(アイルランド代表 132キャップ、ライオンズ 8キャップ)
・得点: 250(トライ:47 DG:5 = ライオンズの1トライ含む)
※ キャップ数や得点など、データはすべて2014年3月9日時点。