コラム 2013.10.10

レニー・チルドレンがやって来る  直江光信(スポーツライター)

レニー・チルドレンがやって来る
  直江光信(スポーツライター)

 ずいぶん時期を逸した形でいまさらの感が強いが、この夏スーパーラグビーで連覇を達成したチーフスの知将、デイヴ・レニー監督について少し触れてみたい。



 昨季からチーフスの監督に就任したレニーは、長らく「十分な戦力を有しながら勝ちきれない」とレッテルを貼られてきたチームを、わずか1年で南半球最強クラブの座へと押し上げた。今季はラグビーリーグに復帰したソニー=ビル・ウィリアムズを筆頭に多くの主軸が移籍やケガで離脱し、厳しい戦いが予想されていたが、若手主体のチームは鮮やかな上昇曲線を描いて成長を遂げ、見事に連覇を果たした。躍進の理由がレニー監督の手腕にあることは、誰の目にも明らかだった。



 1980年代中盤から’90年代初頭にかけてウェリントンのCTBとして活躍したレニーは、引退後すぐにコーチの道へと進み、ニュージーランド(NZ)でトップレベルの戦績を残してきた。2008年から’10年にかけてはU20NZ代表の監督を務め、ジュニア・ワールド・チャンピオンシップ(JWC)で3連覇を達成。U20NZ代表はレニーが監督を退いた翌’11年度の優勝を最後にJWC王者の座を奪われ、昨年は準優勝、今年は4位と下降線をたどっていることからも、彼の存在がいかに大きかったかがうかがえる。



 特筆すべきは、レニーの携わるチームが常に固い結束で結ばれていることだ。’09年に日本で開催されたJWCを制したU20NZ代表も、まさにそうだった。現在ダン・カーターの後継者と称されるSOアーロン・クルーデン主将が率いるベイビー・ブラックスは、スーパーラグビープレーヤーが多数いた前年(’08年)のチームに比べ、能力的に大きく劣ると言われていた。しかしいざ大会が始まれば、一体感ある戦いぶりで目覚ましい躍進を遂げ、一気に頂点まで上りつめてみせた。ちなみにレニー監督によれば、この時の大会前のチームとしての準備期間は、「3回の合宿で合計12日間練習しただけ」。選手、スタッフの絆と連帯感が準備不足を補っての優勝だった。



 U20イングランド代表との決勝を控えた前日練習の後、たまたま通りかかった英語の堪能な日本協会関係者のおかげで、ロッカールームからバスへと向かうレニー監督に即席のインタビューを行う幸運に恵まれた。じっとこちらの目を見つめ、諭すように語りかける穏やかな口調に、「監督というよりなんだか牧師さんのような雰囲気の人だなあ」と感じたことをいまでもよく覚えている。



 チームのコンディションやホスト国である日本のホスピタリティーへの賞賛などをひと通り述べた後、レニーは翌日の決勝へ向け、静かに、そして力強くこう断言した。



「今回のチームはずっと昨年ほどの力はないと言われ続けてきました。しかし彼らはいずれも可能性を秘めた選手たちであり、大会で試合を重ねるごとに素晴らしいチームへと成長してきた。彼らは絶対に自分たちが優勝できると信じている。もちろん私もそれを信じています」



 選手や監督にとって、たいていの場合、隣の芝は青く映るものだ。しかしレニーは違った。選手たちの力を心から信じ、チームの可能性をまるで疑わなかった。この「信頼する力」こそが、レニーが監督としてここまで多くの功績を残してきた一番の要因である気がしてならない。結果的にこの時来日したNZU20代表から、クルーデン、WTBザック・ギルフォードの2人のオールブラックを筆頭に、多くのスーパーラグビープレーヤーが誕生している。



 チーフスのレジェンドであるリーアム・メッサムは、今季のスーパーラグビー優勝後にこう語っている。



「コーチのことを尊敬できれば、選手はその人のためになんでもするものだ」



 レニーに薫陶を受け、その後大きくはばたいていった選手は枚挙にいとまがない。おそらくは11月2日に秩父宮ラグビー場で日本代表と対戦するオールブラックスの中にも、そうした選手が数多く含まれるだろう。4年ぶりに来日するクルーデンを筆頭に、LOサム・ホワイトロック、SHアーロン・スミス、WTBジュリアン・サヴェアといった「レニー・チルドレン」たちがどんなプレーを見せてくれるのか、いまから楽しみだ。


 



【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。


 



(写真:レニー監督のもとで世界クラスのSOに成長したクルーデン/撮影:Yasu Takahashi)

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