躍動するアジア枠の選手たち 小林深緑郎(ラグビージャーナリスト)
強い神戸製鋼コベルコスティーラーズの復活は、10年目を迎えたトップリーグのハイライトと言ってよい。FL橋本大輝主将のキャプテンシーと身体を張ったプレー、LOのポジションで存在感を示す伊藤鐘史、インターナショナル選手の安定感が滲み出たSOピーター・グラント、移籍4年目にして鉄壁のハードタックルを連発するFB正面健司、そして世界最高のセンター、ジャック・フーリーの存在だ。「ハードワークとチーム内の競り合いの成果」、と苑田右二ヘッドコーチは、努力の積み重ねを強調する。
12月9日、岡山でのサニックス戦では、12番クレイグ・ウィングと13番フーリーがセンターコンビを組んだ。2人そろっての先発は、今年7回目ですべて勝利を収めたことになる。しかも、7試合で2人合わせて15トライを記録している。
プレーで目を見張るのが、彼ら2人の長い軌跡を描く強いパスだ。ボールはタッチ際から逆のタッチ際へと瞬時に移動する。今時のラグビーで、これほどWTBに走るスペースが与えられる光景はめったにみられない。特にC・ウィングのパスの威力、恐るべしなのである。
2010年NTTコミュニケーションズシャイニングアークス入りしたウィングは、豪州の13人制ラグビーリーグのスターからの転身だった。彼が15人制に馴染んだのは2年目の昨シーズン。「ユニオンのプレーに馴れていなくて、もし1年契約だったら日本にいられなかったね、もう1年プレーできたのでやり方を覚えたよ」と、才能発揮を機に、3年目の今シーズンは神戸に移籍した。
このC・ウィングこそは、トップリーグに自由に出場できるアジア枠の新しい供給源となってきた、フィリピン・パスポートを持つプレイヤーのパイオニアなのである。ウィングに続いてトップリーグ入りしたのは、豪州U20の代表歴を持つ強力なランナーのティム・ベネット(キヤノン)、以下フィリピン代表のキャップを持つのが、ジャスティン・コベニー(リコー)、パトリス・オリビエ(ヤマハ発動機)、オリバーとマットのサンダーズ兄弟(NTTコム)、ジェームス・プライスとガレス・ホルゲート(ともに九州電力)ということになる。
2013年のアジア5か国・トップ5選手権には、日本、韓国、香港、UAE=アラブ首長国連邦(11月29日にIRBの100番目の正式メンバー入りが承認された)に加えて、降格のカザフスタンに替わって初昇格のフィリピンが参加してくる。
アジア諸国のIRBの最新ランキングは、日本15位、韓国27位、香港28位、カザフ35位、スリランカ48位、フィリピン56位、タイ59位、中華台北60位、マレーシア63位、シンガポール65位、インド68位、中国69位、パキスタン79位、グアム87位、UAE96位となっている。
トップリーグのアジア枠は、韓国選手に関しては目論みどおり、強化に役だっているのは間違いない。その一方で、日本からラグビーが伝えられた歴史を持ち、20年前のアジア選手権では、日本と3点差の僅差の試合を演じたことのある中華台北(台湾)の選手たちの姿が見られぬことには、一抹の寂しさを感じるのである。
(文・小林深緑郎)
【筆者プロフィール】
小林深緑郎(こばやし・しんろくろう)
ラグビージャーナリスト。1949(昭和24)年、東京生まれ。立教大卒。貿易商社勤務を経て画家に。現在、Jスポーツのラグビー放送コメンテーターも務める。幼少時より様々なスポーツの観戦に親しむ。自らは陸上競技に励む一方で、昭和20年代からラグビー観戦に情熱を注ぐ。国際ラグビーに対する並々ならぬ探究心で、造詣と愛情深いコラムを執筆。スティーブ小林の名で、世界に広く知られている。ラグビーマガジン誌では『トライライン』を連載中。著書に『世界ラグビー基礎知識』(ベースボール・マガジン社)がある。
(写真:トップリーグで存在感を増す神戸製鋼のクレイグ・ウィング/撮影:BBM)