新日鐵釜石と神戸製鋼 V7戦士が再びスクラム 震災復興支援マッチ
楕円球がつなぐ縁。東日本大震災復興支援のために立ち上がった往年のスターたち
(撮影:松本かおり)
「ラグビーとしては、なーんの参考にもなりませんでした(笑)」
そんなふうにおちゃらけてばかりだった森重隆さんが、声を詰まらせた。今回のイベント実現へ動き回った、スクラム釜石代表・石山次郎さんへの労いの言葉を求めた時だった。
釜石のリーダーとして、チームを7連覇へ続く道へと走らせた森さん(V4時は選手兼監督)。この日は、「血糖値が高かったので。ハハハ」とピッチに立つことはなかったが、久しぶりに集まった仲間と顔を合わせて愉快そうだった。
試合後の記者会見の最後の方だった。大きな目から、いまにも涙があふれそうだった。
「あんなに寡黙で、ほとんど喋らなかった次郎がこんなに話し、動き回った。だから、みんなも動いてくれたんでしょう」
途切れそうになった言葉を、絞り出すように最後まで続けた。
東日本大震災 復興支援「V7戦士 チャリティマッチ/新日鐵釜石OB×神戸製鋼OB」が9月23日、秩父宮ラグビー場で行われた。雨天にもかかわらずスタンドには多くのファン。釜石の背番号10を背負ったスクラム釜石キャプテンの松尾雄治さんはハーフタイムに、「すみません。スローモーションの試合をお楽しみください」と笑わせたが、見つめる人は手を叩き、声援を送り続けた。かつては圧倒的な技と肉体で輝いていた栄光の男たちが、この日は足がもつれ、転んだ。けれど、決して滑稽ではなかった。みんな、往年のスターたちがどんな思いを胸にそこに立っているのかを理解していたからだ。
20分ハーフの試合のファイナルスコアは30−4。勝ち負けなんてどうでもよかったが、平均して約10歳近く若かった神戸製鋼OBが得点では上回った。
それにしても、体型などの見てくれは大きく変わったが、戦士たちは皆、それぞれのフォームに往時を感じさせた。釜石FB谷藤尚之さんのランからパスに移る時の腰の入れ方。神戸製鋼FB綾城高志さんの歩数の多い走り。松尾雄治さん、平尾誠二さんは相変わらず華麗で、人々は、そんな芸術品を懐かしく見つめ、尊敬の念を込めた。当時の1トライ=4点でゲームが進められたのも味があった。
試合後の会見では、往年のスタープレーヤーが感慨深い一日をそれぞれ振り返った。
「昔の仲間とやるのは、ほんま楽しいですね。ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンの気持ちをもっとつないでいきたい」と神戸OBの林敏之さんが言うと、平尾誠二さんは自身の体験を胸に、「神戸の街は震災前より綺麗になったところもあるけど、人々の心の傷は外からは見えない。きっと、いろんな思いの人がいる。だから今回も、日本が一丸となって、長く、サポートしていかないと」と語った。
いつも陽気な釜石OBの松尾雄治さんは、この日も、とことん明るく振る舞った。
「全国のラグビーファンやそれ以外の方々にも応援いただいて、自分たちも何かしようとなったときに、ラグビーしかできないな、と。だから、きょう、ここに来ました。そして、ラグビーをやっていて、本当によかったと思いました」
感謝の気持ちをそんな言葉で表した後、さらに続けた。
「森さんは、自分は試合に出もしないのに、試合前にロッカールームに来て言うんですよ。絶対勝て。スクラムは相手を持ち上げてグチャグチャにしろって(笑)」
そんな話や、あんな話。いろんな話題が出る中、林さんが、「石山さんは寡黙だけど、スクラムの話になると、ものすごく話されるんですよ」と思い出話を語ると、すぐさま、さっき涙を浮かべていた森さんが口をはさむ。
「それしか話せることがなかけんね(笑)」
楕円球がつなぐ縁と、昔の仲間、そして素敵に年齢を重ねること。ラグビーの周辺にはあったかいことがたくさんあると、あらためて教えてくれた一日だった。