コラム 2012.07.20

若きスター生む南アフリカ  松島幸太朗のライバルたち

若きスター生む南アフリカ
 松島幸太朗のライバルたち

 日本の高校ラグビー選手には、冬の花園を舞台とする全国高校大会や、春のセンバツ、ゴールデンウィーク期間のサニックス・ワールドユース交流大会、夏のKOBELCOカップ合同大会などがありますが、ラグビー大国の南アフリカでは今年7月9〜14日にかけて「クレイブン・ウィーク」が開催され、注目を集めました。


 


「クレイブン・ウィーク」とは、南アフリカラグビーボード(現・南アラグビー協会の前身)の創立75周年を記念し、南ア代表FLとして活躍したピート・マラン氏によって発案された南ア高校生のための全国大会です。選手としても指導者としても広く尊敬され、多くのラグビー文献を残し、人類学、心理学、スポーツ学の博士としての顔も持っていた南アの“ミスターラグビー”、ダニー・クレイブン氏(当時の南アラグビーボード会長)の名を取って1964年に始まりました。
 各地区で代表チームを結成し、当初15チームで行われていた大会は、2000年には32チ
ーム参加にまで拡大。翌年から再編されて、現在のような20チームによるフォーマットとなりました。国内からの18チームに加え、隣国ナミビアとジンバブエのU18代表も参加しています。


 


 南アフリカは、今年のU20代表がジュニア世界選手権で初優勝したことからもわかるように、ユースラグビーがとても盛んです。2010年からジュニア・ワールドラグビートロフィーに出場してきたU20ジンバブエ代表は、3年連続でU20日本代表と大接戦を演じましたから、この「クレイブン・ウィーク」参加も成長につながっているのは間違いなさそうです。


 


 若手の登竜門といわれるクレイブン・ウィーク。大会が行われる毎年7月になると「ハンティングの季節到来」という人もいます。注目しているのはファンや関係者だけでなく、ラシー・エラスムス南ア協会ハイパフォーマンス・マネージャーはもちろん、国内プロチームのスカウト陣も会場に足を運んでおり、大会終了後には多数の才能豊かな高校生がプロ契約を結ぶからです。


 


 7月初め、U20南ア代表の司令塔として世界一になった18歳のSOアンドレ・ポラードがブルーブルズ(スーパーラグビーチーム、ブルズの母体)と契約を結んで話題になりましたが、自分たちが育てたU18代表主将ポラードをライバルチームへ引き抜かれたウェスタン・プロヴィンス(ストーマーズの母体)は、クレイブン・ウィーク期間中にブルーブルズのNO8とSOにアプローチして、獲得に成功しています。U18ナミビア代表の大型CTBもゴールデン・ライオンズ(ライオンズの母体)と契約しましたし、学生生活をあと1年残すプレトリアの有望なSHもブルーブルズから内定をもらっていました。


 


 クレイブン・ウィークには13歳以下の大会もあるのですが、そのなかにはスパイクを買えなくて、裸足でプレーする選手も大勢います。南アフリカでプロのラグビー選手になることは多くの子どもたちにとって大きな目標ですから、ジュニアのラグビーフェスティバルでありながら、若きハングリー精神も垣間見える一週間です。


 


 南アフリカでチャレンジしている若者と言えば、2011年1月に花園で全国優勝を遂げ、桐蔭学園高校(神奈川)卒業後にシャークス・アカデミーに入校した松島幸太朗選手の名前が浮かびます。彼は、今年7月中旬から10月下旬まで開催される南アフリカU19選手権大会にシャークス(クワズールー・ナタール州代表)の一員として参戦予定で、今季第1戦の先発右WTBに抜擢されました。
 松島選手も、クレイブン・ウィークで活躍した選手も、南アのトッププロが参加する
国内最高峰大会の「カリーカップ」や、南半球最高峰舞台の「スーパーラグビー」出場を、近い将来の目標にしていることでしょう。


 


 ちなみに、スーパーラグビーで史上最年少デビューを果たしたのは、現在もオーストラリア代表として活躍するユーティリティBKのジェームズ・オコナーです。ウェスタン・フォースに在籍していた2008年4月18日、レッズ戦に17歳288日で出場しました。
 日本代表では、2012年5月5日のアラブ首長国連邦(UAE)戦で、WTB藤田慶和選手(
早稲田大学)が18歳7カ月27日の史上最年少でキャップを獲得しており、10代後半というのは、国際舞台の扉が見えてくる頃なのかもしれません。


 


 最後に、興味深いデータをひとつ。
 1995年の地元開催ワールドカップで優勝した南アフリカ代表スコッドが、テストデビ
ューを果たした平均年齢は「24.6歳」でした。1980年代と90年代前半はアパルトヘイト(人種隔離政策)で非難され、国際社会から締め出されていた時期がありましたから、テストマッチが少なかったのですが、SHユースト・ファンデルヴェストハイゼンやPRオス・デュラントなどは22歳で初キャップを獲得しています。
 それから8年後、2003年ワールドカップの南ア代表スコッドは、平均「23.7歳」でテスト
デビュー。2011年ワールドカップに参戦したスプリングボクス全31名は、なんと平均「22.5歳」でキャップを手にしており、16年前と比べて平均2歳も若くなっていました。


 


 2019年には、世界中から集まる20歳前後の若者が、日本中を興奮させるかもしれません。


 



(写真:竹中 清)

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