コラム 2011.07.05

Sonny Bill Williams (ニュージーランド/クルセーダーズ)

Sonny Bill Williams
(ニュージーランド/クルセーダーズ)

 マコウ、カーター、ハバナ、クーパー、ウィルキンソン……、楕円球の世界で絵になる選手といえば幾人か頭に浮かぶが、ニューフェイスの旬な男なら、彼をおいて他にいない。ソニー・ビル=ウィリアムズ、略してSBW。オールブラックスとしてまだ4試合にしか出場していないが、首脳陣の彼に対する満面の笑顔を見れば、ただ者ではないなと想像がつく。


 


 10代の頃からラグビーリーグ界(13人制)のスターだった。高校時代にシドニーの名門カンタベリー・ブルドッグスにスカウトされた。2004年、18歳でプロデビューを果たすと、瞬く間にトッププレーヤーの仲間入り。同年、13人制ニュージーランド代表デビューも果たし、RLIF(ラグビーリーグ国際連盟)の最優秀新人賞。ラグビーリーグではLO、バックローで活躍した。


 


 2007年3月9日、ブルドッグスと5年総額200万豪ドル(約1億7500万円)の契約を結ぶ。つまり、少なくとも2012年まで彼はブルドッグスに在籍しなければならなかったのだが、大型契約から約1年4カ月後、チームに無断で、フランスの15人制トゥーロンと契約を交わした。ブルドッグスのみならず、13人制ラグビーファン・関係者は大激怒。結局、トゥーロンがブルドッグスに移籍金30万ポンド(約3900万円)を支払って、SBWは新天地フランスへ。
 トゥーロンでタイトルは獲得できなかったが、2010年の欧州チャレンジカップ準優勝に貢献した。


 


 2010年6月にトゥーロンとの契約は満期を迎え、チームは新たに3年総額600万NZドル(約4億円)近くのオファーを提示した。代理人はその契約に応じることを強く勧めたというが、本人は母国でのプレーを選択する。NZ・オークランド出身でマオリ系、少年時代からの夢はオールブラックスであり、トゥーロンの3分の1も報酬を払えないニュージーランド協会ならびにカンタベリー協会との契約書にサインをした。


 


 2010年9月3日のベイ・オブ・プレンティー戦でITMカップ(NZ国内州代表選手権)デビュー。同年末の香港&欧州遠征でオールブラックス入り。11月6日のイングランド戦で初キャップを獲得した。2011年は南半球の猛者が集うスーパーラグビーにクルセーダーズの一員として登場し、3月4日のワラタス戦で初舞台を踏んでいる。


 


 身長191センチ、体重108キロ。鋼のような肉体は運動神経の塊で、パワー、スキル、バランス、スピードは超一級品。ラグビーリーグ仕込みのハードタックルも見ものだが、彼の最大の特長はオフロードパスにある。視野の広さとパスのタイミングは、ラグビーに新たな革命を起こしつつあるといわれ、ハードタックルを片腕で防ぎながら抜群のボディバランスでボールをつなぐ。


 


 暴言で有名な南アフリカ代表のピーター・デヴィリアス監督はそんなSBWが気に食わない。「あんな派手なプレーは若い選手にとって悪い見本だ。バックハンドパスが標準になっちゃ、ラグビーがダメになる。彼は目立ちたがり屋なんだろうが、あんなリスキーなプレーはテストマッチレベルでは通用しないぜ」と噛みついた。それでも、オールブラックスのコーチ陣を含め、世界は驚嘆の声が圧倒的。


 


 2008年からオールブラックスのセンターラインは、マア・ノヌー&コンラッド・スミスで定着していたのが、SBWの参戦で活性化。クルセーダーズでSBWとコンビを組む若いロビー・フルーエンまでも能力を引き上げられ、CTB陣は厚みを増している。


 


 超一流のラグビー選手だが、プロボクサーとしての顔も持つ。2009年5月27日にプロデビューし、2ラウンドでテクニカルノックアウト勝ち。ニュージーランド・ラグビー協会と契約を交わした際、リングに上がる許可も得ており、スーパーラグビーの試合が組まれていなかった今年6月5日には、クライストチャーチ地震の復興支援として企画されたボクシングバトルで、判定勝ちを収めた。相手は肘に故障を持つ43歳のゴスペル歌手だった、というのは大した問題ではない。リングサイドで見守ったオールブラックスのグラハム・ヘンリー監督にとっては、SBWに怪我がなかったことが一番であり、ファイトマネーの10万NZドル(約670万円)が復興支援のためにあてられることが称賛に値する。


 


 私生活では、2008年にイスラム教に改宗し、史上初のイスラム教徒オールブラックス誕生も話題を呼んだ。


 イスラム教といえば、信者にとって聖なる月の『ラマダン』中は、日の出から日没まで断食することでも知られる。肉体労働者や病人など、合理的な事情がある場合は昼間の断食を免除されることもあり、宗派や地域によってはスポーツ選手も免除の対象になるようだが、自らの意思で断食を貫き通すスポーツ選手もいるという。ちなみに、2011年のラマダン期間は8月1日から29日までとなっており、オールブラックスはトライネーションズの真っただ中(8月6日、27日はオーストラリア戦、20日は南アフリカ戦)。こちらも、SBWの対応に注目が集まる。


 


 



ポジション: CTB
生年月日: 1985年8月3日(25歳)
出身地: オークランド(NZ)
身長: 191cm   体重: 108kg
所属チーム: カンタベリー  (クルセーダーズ)


 


【国代表】
デビュー: 2010年11月6日(対イングランド)
CAP: 4
得点: 0


 


※ 記事と為替レートは2011年7月5日時点

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