【Vol.4/最終回】「ポジティブなラグビーが勝つと信じている」。ユーゴ・モラHC[スタッド・トゥールーザン]インタビュー
19節を終わってもトップ14の首位を走り続けるスタッド・トゥールーザン。
同クラブのユーゴ・モラ ヘッドコーチ(以下、HC)へのインタピュー第4弾だ(最終回/第1回、第2回、第3回はこちら)。
同HCは1990年、17歳でスタッド・トゥルーザンに入団。WTB/FBとして活躍した。
フランスチャンピオン3回(1994、1995、1996年)、ヨーロッパチャンピオン1回(1996年)と、クラブに栄光の歴史をもたらした経験のある49歳は、「ポジティブなラグビーが勝つと信じています」と言う。
「相手チームのプレーを妨げることで勝つことも時にはできる。南アフリカは対戦チームにプレーさせないことで勝つ。モンペリエ、カストルも相手にプレーさせない。もちろんそれは禁止ではありません。ルールに沿って、彼らの武器、彼らの選手、彼らのカルチャーでそうしています」
モラHCは違う。
「私はどんどんプレーを生み出すようなラグビーで喜びを感じながら勝ちたい。2018-2019シーズンは、そうやって優勝しました。ベストアタック、勝利数、パスの数、オフロードパス数、ラインブレイク数で記録を更新しました」
2020-2021は雨の日の試合が多かった。
「対戦相手に合わせてカメレオンのように戦術を変え、プレーを変えながら欧州チャンピオンズカップとトップ14でダブル優勝をしました。カメレオンのように変わることができ、なおかつ大胆に我々のラグビーができるチームでありたい。それがスタッド・トゥルーザンの未来の姿です」
「現代ラグビーには少しうんざりしています」と話す。
「昨秋のフランス×日本はスタジアムで観戦しました。正直に言いますが、退屈な試合だと思いました。残念だと思います。重要なのはプレーしている選手が喜びを感じること。そうすることによって感動が生まれる。ポジティブな時もあれば、ネガティブな時もあります」
「フランス×日本では、どちらかと言えば、日本チームから感動が伝わってきました。なぜなら日本の選手は試みようとしていた。必ずしも、うまくは機能しませんでしたが。フランスは体系化しすぎています。もっと何かできたはずなのに」
しかしフランスは勝った。「だから(結局は)彼らは正しい」と続けた。
選手はどんどん速くなり、コンタクトの衝撃も強くなっている。
ラグビーはこれからどのように進化していくのだろう。
「選手に伴う危険や、このスポーツの危険な面については、本当に議論の余地があります」とモラHCは言う。
「とても有名なコーチたちが『ラグビーは格闘技だ』と唱えていた時期がありました。私はラグビーとは集団で戦うコンタクトスポーツだと考えています。スクラム、モールのほかは、いかに相手をかわすかというスポーツです」
ただ、そこにコンタクトが伴う。
「でも格闘技ではありません。格闘技とは柔道やレスリング、ボクシングなどのこと。ラグビーは相手を崩しにかかるスポーツではありません。少なくとも、それは私の哲学ではありません」
世界の勢力図を見て、「いまのチャンピオンは相手を崩すチームだ」と言う。
「何かを生み出すチームではありません。良いニュースは、オールブラックスがまた強くなってきたことでしょうか。イングランドが2019年にチャンピオンに近いところまで到達したのは、(当時)ラグビーをプレーしていたからです。イングランド戦、フランス戦は残念でしたが、日本は10月のオールブラックス戦ではラグビーをプレーしていたと感じました」
「自分たちのスタイル」が大事。
アイデンティティーがラグビーを魅力的なものにする。
「フランスでは長い間ラグビーは南部のスポーツでした。それぞれのチームにアイデンティティーがありました。世界のラグビーの現在の問題は、それぞれの国のアイデンティティーが見えなくなってきたことです。フィジーがヨーロッパのようなラグビーをしようとしている。それはフィジーじゃない。日本はニュージーランドのようなプレーをしようとしています。それは日本のラグビーではない。違和感を感じます」
「最近のイタリアは熱狂的でとてもフレッシュなマインドセットでプレーしている」と言う。
「彼らはイタリアらしいと思う。アルゼンチンもアグレッシブなファイティングラグビーをしている。まさに彼らのラグビーだ。それぞれのアイデンティティーとカルチャーを大切にすべきだと思います」
自己改革が必要だと常に考えている。
「他の競技のコーチと意見交換したり、企業の人たちと交流したり、脳はどのように機能して物事を理解するのか、また集団的な機能の仕方と個人的な機能の仕方についてなど、新しい科学を学ぶために積極的に意見交換や学習の機会を設けています」
チームには現在、8人のラグビースタッフがいる。
「8人ともスタッド・トゥルーザンのジャージーを着てプレーしたOBばかりです」
「クレマン・ポワトルノー、ジャン・ブイユー、ジェローム・カイノ。彼らはたくさん勝ちました。彼らは私に自分たちが経験したことをもたらしてくれた。トゥールーズでの経験をとても大切にしながらも外部に新しいアイデアをどんどん探しにいきます。そうすることによって、ぶれることなくチームを革新していくことができます」
チームは静岡ブルーレヴズとパートナーシップ協定を締結している。これは、ヤマハ発動機ジュビロ時代の2019年に始まったものだ。
「彼らと交流できることをとても評価しました。2019年のワールドカップ(以下、W杯)期間中に2人の若手の選手(ヤニック・ユユット、カール・マランダ)がヤマハに行きました。来年も1〜2人送りたいと思っています。また2023年のW杯期間中、私たちのトレーニング施設は日本代表チームが使用するので、2週間ほど日本に行き、知らないカルチャーの中で、いつもと違ったことができればとも思っています」
「いつか他のところに行って、自分自身が異なる文化を生きることができるのかどうか見てみたいと思っています」と将来に目を向ける。
「私のカルチャーはトゥールーズのカルチャーで、ここで育ち、ここで勝ち、ここでしか勝てていない。他のカルチャーの中で勝つことができるようになったのだろうか、と思うことがあります。いまは、ここが良すぎてどこにも動けませんが」
「日本は誰がリーグのルールを決めているのですか」と問う。
「たくさんの選手が(海外から日本にやってきて)、6月プレーするだけで莫大な金額の報酬を得ています。理解できない。リーグに注目を集めたければダン・カーターのようなスター選手も必要でしょうが、それと同時に、全体のプレーのレベルも上げる必要がある。長期の話となりますが、ラグビースクールや育成の過程でもっとプレーさせるのも必要です」
日本での思い出がある。
「1996年に東京に行きました。7人制の大会にフランス代表として参加しました。小さな規模のスタジアムでした。近くに国立競技場があり、野球場もありました。野球はすごい人気で球場は満員でした。10日間滞在しましたが、日本のカルチャーがとても好きになりました」
NHK『旅するフランス語』の取材を受けたことがある。「ちょっと待って、見てもらいたいものがあるから!」と言って、NHKのロゴが入った手ぬぐいを持って戻ってきた。
「この取材の時にいただいたものです。(この取材の後トップ14で優勝し)幸運をもたらしてくれた。それ以来ずっと大切に持っています。2021年に優勝した時も持っていました。少し古くなってきましたが。このタオルをいつも自分のバッグに入れています。名前があるのですね、『テヌグイ』でしたか? とても綺麗ですね」
「私はもっと日本と関係を持ちたいと思っています。フランスの問題は、何人かのフランス人コーチが日本でコーチをした時に、うまくいかなかったということ。でも私たちコーチの新しい世代は、日本と仕事がしたいと思っています。日本にはたくさんのオーストラリア人やニュージーランド人、南アフリカ人のコーチがいる。確かに私たちには言葉の壁が多少あるとはいえ、フランス人コーチが日本と繋がりを持てないことは残念だと思います」