府中ダービーでも好プレー連発。22歳・山本凱の「天井」はどこにある?
タックルでファンを作れるだろう。
山本凱。東京サントリーサンゴリアスへ入ったばかりの22歳だ。
公式で「身長177センチ、体重98キロ」。足腰の太さ、胸板の分厚さが際立つ。
黒いヘッドキャップをつけ、巨躯の足元へ刺さるさまは痛快だ。衝突とともに鈍い音を放ち、相手をその場、もしくは後方へ倒す。
「ディフェンスで働いて、ブレイクダウン(接点)でプレッシャーをかける。求められているのはそこだと思うので、しっかりやろう…と」
2月5日、東京・秩父宮ラグビー場に見参した。東芝ブレイブルーパス東京とのリーグワン1部・第7節で、オープンサイドFLとして先発した。いきなり魅した。
自軍ボールのキックオフがなされるや、ハーフ線付近からダッシュ。弾道に沿い、敵陣の深い位置まで駆ける。
視界に入るはリーチ マイケル。日本代表で主将経験のある、ブレイブルーパスのNO8だ。
リーチが捕球し、走り込んでくるところへ、山本が、刺さる。
自分より12センチ、15キロも大きな名士をなぎ倒し、淡々と起き上がり次の防御ラインへ入る。
かねてこの若者の凄さを知るリーチが「ステップを切ったら『いける(かわせる)』と思っていたんですけど、ステップ切ったところへ『いかれ(タックルされ)』ました」と首を傾げたこの瞬間。本人は静かに燃えた。
「(最初に)タックルして、エンジン、かかりました」
果たしてこの午後、何度も爪痕を残した。
0-0で迎えた前半5分頃には、グラウンド中盤で味方NO8のテビタ・タタフと一緒に相手走者をつかみ上げる。
3点を先取後の前半13分頃には、敵陣中盤の接点に参加する。
複数名同士で激しくせめぎ合う局面にあって、「接点で、ゲインライン(攻防の境界線)で負けないことをチームとして意識していました」。ここでは味方のランナーをサポートしながら、対するオープンサイドFL、マット・トッドを下敷きにした。
結果的にトッドの反則と、10分間の一時退場処分を誘った。サンゴリアスは以後、数的優位を活かして一時13-3とリードできた。
ここから試合は打ち合いの様相を呈する。続けて山本は光る。
本人の記憶にないところでは、続く27分のトライシーンがある。
左から右への展開でWTBの尾崎晟也が約50メートル、走った場面。起点となるラックから出た球を最初に受けたのは、山本だった。
防御を引き寄せながら、右斜め後ろへさばく。ここからSOのアーロン・クルーデンのロングパス、FBの松島幸太朗の移動攻撃からのふわりとしたパスが生まれる。
尾崎晟がトライした後のコンバージョンも決まり、スコアは20-10となった。
本人が覚えているのは、30-27で迎えた後半16分頃の一撃だ。
まずはサンゴリアスが、相手ボールのキックオフを自陣22メートルエリア右で確保する。
SHで途中出場の流大が接点から高く蹴り上げると、弾道を複数名が束となって追う。ハーフ線を通過する。
その隊列の1人だった山本が、流のキックを捕って間もない走者へ刺さる。
テイクダウンと同時に起立。味方とともに接点を乗り越え、攻守を逆転させた。
「キックから、プレッシャーをかけてタックルするのは(練習で)よくやっていたので」
本人が淡々と振り返るそのシーンに、対するリーチは脱帽した。
「キックチェイスに入って、一気に流れを変える…。そのスキル、見習いたいと思います」
続く25分頃には、自陣10メートル線付近中央でジャッカルを繰り出す。リーチが引きはがそうとするなかでも体勢を変えず、ペナルティキックを勝ち取った。
折しも37-34と競っていたとあり、ファインプレーの価値はより高まった。
ノーサイド。40-34。今季6勝目を飾った。本人はこうだ。
「これからも強い敵との連戦。(チームが目指す)アグレッシブ・アタッキングはいい感じでできているので、細かい点を修正して勝ってきたいです」
出身の慶應高、慶大にいた頃から、学生シーンや年代別代表の活動で激しさをアピールしてきた。複数のクラブに誘われるなか、旧トップリーグで優勝5度のサンゴリアスへ加わった。
国内の実力者が集いがちなサンゴリアスを選んだことで、いまは普段の「いい練習」に後押しされている。嫌味のない口調で言う。
「サンゴリアスで強度の高い練習をしている分、試合ではそんなに(驚かない)という感じです。サンゴリアスで一緒にやっている選手が、めちゃ強い。それに負けないようにやっているのがいいのかな、と思います」
昨季のリーグワン1部では、シーズン終盤にあたる4月1日以降から出場資格を与えられた。すると2度の出番を得て、得意のタックルを披露した。
さらに昨年12月開幕の新シーズンでは、第7節までに6試合に出ている。
山本と同じオープンサイドFLの位置には、34歳の小澤直輝がいる。強靭さと勤勉さで信頼を集め、2021年には日本代表となっている。
分厚い戦力を預かる田中澄憲新監督は、「凱の力は天井まで来ていない」。まずは自らの責任のもと、山本に実戦の機会を与える。試行錯誤を促す。新人の、組織の、可能性を広げる。
「凱はインパクトがあるのでそこを評価されますが、細かく見ていくとミス、粗削りな部分もある。ただ、それは本人もわかっているし、スキルアップしていくと思います。すると、もっと上のレベルになっていく」
休息週明けの2月18日には、リコーブラックラムズ東京との第8節に臨む(東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場)。若きタックラーは、自分の「天井」がはるか上にあることを証明したい。