国内 2023.01.27

日本との違いは? 海外トップレベルのレフリーがリーグワン試合を担当

[ 編集部 ]
日本との違いは? 海外トップレベルのレフリーがリーグワン試合を担当
アンガス・ガードナー氏は38歳。2019年W杯の日本×アイルランドも担当した。(撮影/松本かおり)



 次週も見たい。
 試合の中で存在を主張するわけではないのに、そう思わせた。
 オーストラリア協会所属のアンガス・ガードナー レフリーだ。

 1月22日、三菱重工相模原ダイナボアーズ×静岡ブルーレヴズで笛を吹いた。
 27-27。熱戦となった試合は、特に接点で激しいボール争奪戦が繰り返された。
 その試合で同レフリーは淡々とゲームをマネージメントした。

 ダイナボアーズとブルーレヴズの反則は、それぞれ14と16。決して少なくはなかった。
 しかし、それがあまり気にならなかった。起きたことすべてに笛を吹くわけでなく、吹くべき時に吹いた結果だろう。

 印象的なシーンがあった。後半72分になる頃のラインアウトだった。
 敵陣ゴール前、ダイナボアーズが投入するシチュエーション。しかしうまくキャッチできず、ノックオンとなった。

 そのとき、ブルーレヴズの選手たちが大きな声で喜びの声を発する。そして、そのうちの一人が相手側に向かって叫んだように見えた。
 ガードナー レフリーが笛を吹いた。ブルーレヴズ側を罰し、ダイナボアーズにPKを与えた。

 4分前、ブルーレヴズは相手ボールのスクラムを押し切って反則を誘い、PKを得た。選手たちは叫び、喜びを表現した。
 その際、主将のNO8クワッガ・スミスを呼んで「選手たちがやや興奮しすぎだ」と注意を与え、落ち着くように促した。
 そんな伏線があった末の、ラインアウト時のジャッジだった。

 試合後、ブルーレヴズのスミス主将は80分を振り返り、国際的レフリーがリーグワンの試合を担当することを歓迎した。
 レフリー自身の経験にもなる。リーグワンの選手たちにとっても、国際レベルのレフリングに慣れる、学びもある。

 スミス主将は、多くの反則を取られたことに対し、「選手たちは気持ちが入り、やり過ぎた。自分たちの問題」と話した。
「レフリーは試合への影響を与える存在。それに順応しながら、自分たちのラグビーにフォーカスすることが大事」とした。

「レフリングは毎週、レフリーによって変わるもの。その影響を受けるのではなく、規律の中でプレーできるようにしないといけない」と続けた。

 同日は、秩父宮ラグビー場でおこなわれた東芝ブレイブルーパス東京×トヨタヴェルヴリッツでも国際的レフリーのニック・ベリー レフリー(オーストラリア協会)が笛を吹いた。
 第1節にはニュージーランド(以下、NZ)協会所属の国際的レフリーが3試合を担当している。

スーパーラグビーのレッズでのプレー経験もあるニック・ベリー氏(38歳)。2019年W杯ではアイルランド×サモアなど、数試合を担当。(撮影/髙塩隆)

 今季のリーグワンでは海外レフリーを招聘し、競技力とレフリングの向上を目的とした試みをおこなっている。
 昨季も同様の活動を考えていた。しかし、コロナ禍の影響で実現できなかった。

 1月22日の試合を担当した2人のリーグワン参戦がそれぞれ1試合のみとなったのは、両者とも2月4日、5日に開幕するシックスネーションズが控えているからだ。

 ガードナー レフリーはシックスネーションズの開幕節、ウエールズ×アイルランドでアシスタントレフリーを務め、第5節のスコットランド×イタリアでレフリーを務める。
 ベリー レフリーも同様に開幕節と第5節に登場する。それぞれ、イタリア×フランスでアシスタントレフリー、フランス×ウエールズでレフリーとしてピッチに立つ。

 2人は来日期間中、日本のレフリーたちを相手に、自分たちの経験やスキルを伝え、情報を交換するセッションをおこなった。
 1月20日には報道陣に対しての記者会見も開かれた。

 その記者会見で日本協会ハイパフォーマンス部門レフリーマネージャーの原田隆司氏は、今回の試みの狙いを、こう話した。
 リーグワンをワールドカップ(以下、W杯)レフリーが吹いたらどうなるのか。
「テストマッチやスーパーラグビーではなく、(トップレフリーが)自分たちが吹いているリーグ、試合を吹くところを見ることができる。それが日本のレフリーたちにとっては大きい。学ぶことがたくさんあると思います」

 それだけでなく、選手たちを指導するコーチ陣にも学びとなるのではないか、と話した。
 結果、全体的な競技力アップに繋がり、日本代表の強化にもつながると考える。

 会見には日本協会レフリーコンサルタントのポール・ホニス氏もオンラインで参加し、現在のレフリングの傾向と日本のレフリーの印象を話した。

「日本のレフリーは、ペナルティがあるとキッチリ笛を吹いている印象です。それは(反則に気づく)テクニカルの部分が向上したということでしょう。しかし現在は、いつ笛を吹くべきか。世界的には、そこを重要視してゲームをマネージメントするようになっています」
 洞察力の大切さを伝えた。

 レフリーマネージャーの原田氏は、第1節の3人のNZレフリーについて、「各チームからハッピーなフィードバックしかなかった」と報告した。
 特に接点での攻防が激しくなっている試合を、「簡単に吹いている」ような印象だったと話す。
 ディシジョンメイキングの正確さ、事前の声かけの大切さなどの重要性をあらためて認識した。

 ガードナー レフリーは、ケガが原因で15歳の時にレフリーを始めた。
 クラブレベルの担当から一歩一歩階段を昇った。2018年にはワールドラグビーのレフリー・オブ・ザ・イヤーに選出されている。

 初めての来日は2010年。サニックスワールドラグビーユース交流大会の担当時だった。
 2019年のW杯では日本×アイルランドの笛を吹いた。「レフリーの立場でも、あの場所にいられたのは幸せなことだった」と話した。

 レフリーとしての成長に関しては、「他者と経験から学ぶことが大事」と話した。
「他のレフリーがどういうレフリングをしているのか。準備、レビューの仕方がどうなのか。そのあたりを知ることもプラスとなると思います」
 その蓄積が増えれば増えるほど成長できる。

 ベリー レフリーは、スーパーラグビー(レッズ)やヨーロッパのクラブ(仏・ラシン、英・ワスプス)でのプレー経験など、トッププレーヤーとして活躍した後にレフリーを始めた。
 2006年にはオーストラリアXVの一員(SH)として来日し、日本代表から61-19と勝利を手にしている。

 トップレベルでのプレー経験を踏まえ、「ゲームシチュエーションの理解や、プレッシャーの大きさは分かっている」と話す。
「海外に出ることも含め、いろんな国、いろんな試合と、違った状況を経験することが上達に役立つと思います」

 リーグワンでは今後も、スケジュールと相談しながら海外レフリーの招聘を実現させたい意向を持つ。
 また、日本のレフリーの海外派遣も視野に入れている。

 正しいルール理解、レフリング技術とディシジョンメイキングの向上を土台に、経験値を高められる環境整備を並行して進めたい。
 それを実現できれば、日本からのW杯レフリー誕生への道も見えてくるだろう。


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