「1、2年生は泣くんじゃねぇ」。富山第一、進歩の初戦敗退。
自信、持てよ。顔を上げろよ。スクラムで低い姿勢を保ち、押した左PRの中村優天が、悔し泣きする仲間をひとりずつ励ましている。
部員同士が自然と輪を作っている。ここへ河合謙徳監督が入ると、中村が「集合」と告げる。部員はさらに小さくまとまる。
12月27日、東大阪市花園ラグビー場。全国高校大会の1回戦で敗れた、富山第一高のひとこまである。
河合監督は早大卒の35歳。精悍な顔立ちを青い布マスクで隠しながら、ここで引退となる3年生、来年以降も頑張る1、2年生へ訓示した。こんな趣旨だった。
「努力しても報われないことが、生きとったらある。そこからどうするか(が大事)。糧にして欲しい。1、2年生は泣くんじゃねぇぞ。泣けるということは、自分たちに足りないところがあったから。3年生にいい思い(充実した試合)をさせてもらったんだから、きょうのことを『次につながるゲームだった』と言えるよう、来年またここに戻って、皆で笑おう」
高いハードルに挑み続けている。花園へは通算14度、出場も、2回戦進出は1回のみだ。
連続で出た直近の3大会も初戦で敗退。特に2019年度は、島根の石見智翠館高に0-132で屈した。
相手走者を待ち構えて止めようにも、個体差で差し込まれた。局面を打開すべく前に出てタックルしにかかれば、その背後にパス、キックを通された。対戦校の指導者から「(コンタクトの差が顕著で)危ないのでは」と心配されたほどだ。
地域ごとの戦力格差がラグビー界全体の課題と言われるなか、河合監督はこう話していた。
「力のある選手が一部のチームに集まる傾向は確かにあるかと思います。ただ、(選手に)強いチームに行きたい気持ちがあるのは当然です」
地元の有力な少年が県外へ流れてしまう現実も、自分たちの問題として捉えた。
「我々が『富山に残っても花園に勝てる、いい経験ができる』という魅力あるチーム作りができていない。まだまだ力不足。まずは地元の子たちでいいチームを作らないと」
コーチとしての信条は、「プレーするのは選手。どんなラグビーがしたいか、どんなチームで作りたいかを自分たちでデザインするのが大事」。主体性を重んじるスタンスは変えず、学年ごとのキャラクターに左右されない「チームの軸」を作るようにも意識した。
具体的には当たり負けしない身体づくり、ぶつかり合いの練習に注力した。花園での苦い経験からだ。
「ここ(花園)で何回も跳ね返されているのは接点で戦えていないからです。身体づくりにしっかりと取り組む、自分たちが勝てる接点の作り方をして前進する」
果たして2020年度は仙台育英高に0-50、21年度は長野・飯田高に8-31と応戦してきた。河合監督は、年度ごとの対戦相手の実績の違いがあるのを認めながら、徐々に手応えをつかめるようになったと語る。
かくして迎えた今年度の1回戦。山口の大津緑洋高へ、持ち前の防御力で牙をむく。
試合開始早々。2年生CTBの浜岡瑛心が相手走者をつかみ上げ、直後の攻防で向こうが落球。自軍スクラムを得れば、SOの山田純平主将がロングキック。ピンチを脱した。
以後もタックルが冴えた。2年生FLの岡本煌汰は、「攻めのディフェンスを意識」。0-10とリードされていた前半終了間際には、自陣22メートルエリアで強烈に突き刺さった。落球を誘った。
後半に入ると、ベンチからよく飛んだ「敵陣でのディフェンスを増やせ」との指示を遂行できるようになる。
2年生SHの川原田蒼士が高い弾道を蹴り上げ、落下地点へ3年生WTBの若林陽平らが圧をかけた。
15点差を追う後半17分には、モールを組んで岡本がチーム初トライ。7-15と迫った。
総じて好機を逃し、最後も追加点を奪えないままノーサイドを迎えたものの、指揮官は、反省の弁にもかすかな充実感をにじませた。
「そういう(得意の防御が活きる)シーンをいかに作るか。そのゲームメイクがよくなかった。ただ、局面、局面では、手応えをつかむことはできたかなと思います」
続けて強調したのは、最上級生の個性だ。
今年の3年生で入学前から楕円球を追っていたのは、10名中2名のみ。経験値でディスアドバンテージがあったなか、柔軟にプレー面のアイデアを出し続けていたという。河合監督はほめる。
「主将の山田は自由な発想を持っています。副将の竹澤(咲人=HO)は本当に研究熱心で、海外や日本の大学ラグビーもたくさん見て、『こんなラグビーをしたい』と思いを持ってやってくれた」
SOの山田は中学までハンドボール部員だったが、2019年のワールドカップ日本大会を見て「キック、パス、多彩なことがあり、自分に向いている」と魅せられた。
前年度は、県予選時の骨折で全国大会に出られなかった。悔しい思いもあったろうが、へこたれなかった。
「メンバー外選手としてチームに貢献できたことが今年につながった。視野が広がったことが、主将(の役目)に活きました」
かたや来季を担う2年生は、総勢23名。この日も先発15名中8名を占め、中学までの競技経験者も多い。CTBの浜岡、SHの川原田、人をかわす技術のあるNO8の開保津璃樹らとともに、岡本は先を見据える。
「富山第一はディフェンスのチーム。組織にこだわっています」
幼少期から富山の魚津市でラグビーをしてきた岡本は、中学2年時に2019年度の「0-132」を目の当たりにしても「自分の代で、強い相手にも勝てるように変えてやるぞと意識を持ってきました」。ラストチャンスをつかむ1年間は、いま始まったばかりだ。
涙の円陣を終えると、指揮官がテレビカメラの前に立つ。
「高い壁を感じています。ただ、毎年、違う生徒たちとチャレンジさせてもらい、充実した時間を過ごさせてもらっている。幸せだなと感じます」と表情を緩めた。