日本代表 2022.06.25

21歳の李承信、新しい扉を開く。6月25日、ラグビー日本代表デビューへ。

[ 編集部 ]
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21歳の李承信、新しい扉を開く。6月25日、ラグビー日本代表デビューへ。
李承信。ハイレベルの日本代表合宿でハングリーに成長してきた(撮影:松本かおり)


 21歳の青年が、自分で選び進んできた道で、新しい扉を開こうとしている。
 李承信(り すんしん)。2022年、ラグビー日本代表に初選出され、6月25日に福岡・ミクニワールドスタジアム北九州で開催されるウルグアイ代表戦の試合登録メンバーに選ばれた。背番号22をつけてベンチに入る。出場すれば、朝鮮高校出身者として初めて15人制日本代表キャップ獲得となる。

「本当に漠然とした目標だったんで、正直、こんなに早く選ばれるとは思っていなかったです」

 大阪朝鮮高級学校でプレーしていたころから才能は注目されていた。2017年度と2018年度に高校日本代表に選ばれ、2020年にはジュニア・ジャパンでダブルキャプテンのひとりとしてチームをけん引し「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ」で初優勝を遂げた。
 これらの経験を通じ、李は世界を意識するようになる。大阪朝高を卒業後、進学した帝京大学を1年で辞め、海外への武者修行を決意。アイルランド、ウェールズ、フィジーなどの選手と戦い、スピードやフィジカルの差、そしてラグビーへの理解度の違いを感じ、世界へ出てレベルアップしたいと思ったのだ。
 本当は、ラグビーが国技とされるニュージーランドに留学したかった。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により渡航は不可となり、失意に暮れる。実家のある神戸で独りトレーニングしていたところ、縁あって神戸製鋼コベルコスティーラーズ(現・コベルコ神戸スティーラーズ)の施設を使わせてもらうことになり、実力が評価されてスティーラーズ入団となった。

「大学を退学した時点で、自分が進む道に後悔がないように、一つひとつの行動だったり、過ごし方は大事だなと思っていました。いま振り返っても後悔はしていない。もっともっと、自分が選んだ道に誇りをもてるように頑張っていきたいです」

 スティーラーズでは1年目からチャンスをつかんだ。トップリーグ2021の開幕戦でデビュー。2年目は、当時弱冠20歳ながら、数々のタイトルを獲得してきた名門チームの副将を任され、リーダーシップを発揮しただけでなく、新しく始まったリーグワンではチームの実戦(13試合)すべてに出場、スタンドオフ(10番)、インサイドセンター(12番)として活躍し、5トライを含む97得点はディビジョン1全体で4位という成績だった。

 パフォーマンスはジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチの目に留まり、5月9日、代表候補選手としてリストに名を連ねる。そして数週間後、日本代表入りが正式に決まった。

「正直、驚きがいちばん大きかったですね。自分はNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)へ行くと思っていたんで、驚きと、素直に嬉しい気持ちもありました」
 李は、日本代表に選出されたときの心境をそう振り返る。
「目標が明確になってきた部分もあるんで、もっとハングリーに、もっともっとアピールしたいと思っています」

 日本代表に選ばれる前の別府合宿では、ワールドカップ2大会出場の経験がある同じポジションの田村優からも多くのことを教わったという。
「一つひとつのパスや、キックのスキル、日本代表のスタイルにあったスタンドオフとはどういうものかとか。10番だけじゃなく12番もしっかりプレーできるように、『いろんな選手とコミュニケーションを取っていった方が10番として試合に出るときに絶対プラスになるよ』という話をいただきました」

 コミュニケーションの大切さは、リーグワン初代MVPに輝いた36歳のフッカー、堀江翔太にもアドバイスされたという。
「堀江選手はすごいベテランで、レジェンドでもあって、一つひとつのプレーの精度がすごく高い。練習中でもたくさんアドバイスしてもらっており、『フォワードの選手へのコミュニケーションを取り続けてほしい』というのは、口酸っぱく言われています。やっぱり、話す力というのは大事なんだなというのは感じました」

 ハイレベルの環境で、李は自分自身の成長を感じている。

 今回の日本代表のスタンドオフには田村優がおらず、松田力也や小倉順平といった経験豊富な選手もコンディションの関係で今夏のスコッドには入っていない。李のほかには山沢拓也と中尾隼太が選ばれており、若い3人が切磋琢磨しているが、李が特にアピールしたいのは切れ味鋭い走りだ。
「10番としては、自分がボールを持ってランするところを強みとしてやってるんで、そこでは他の選手との違いを見せていけたらなと思います。チャレンジして、受け身にならず、ボールをもらったら強気で勝負していきたい」
 身長176センチ、体重85キロは世界標準では小柄だが、空いているスペースを見つけたら、フットワークを活かしながら相手をずらし、オフロードも巧みに使いたい。

 そして、朝鮮高校出身者として初の日本代表キャップ獲得へ向け、周りからの期待も感じており、それに応えたいと思っている。
「自分が思っているよりも多くの方に応援していただいて、直接連絡もいただきますし、母校だったり、いろいろなところから応援のメッセージをいただきます。朝高時代から在日社会に対して貢献してひとりでも多くの人が希望をもったり、ラグビーをしたいという人が出てくるのが自分の夢でもあったので、そういう意味では、プレッシャーというよりもその期待に応えたいという気持ちが大きいです」

 2022年6月25日、新たな扉が開こうとしている。

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