212センチ! 東洋大1年生のウーストハイゼンは、「自分より大きな人と会ったのは人生で一度だけ」
2019年11月8日、南アフリカでは、ある高校生の存在がSNS上で話題になった。
日本で開催されたワールドカップで世界一となったスプリングボクスが凱旋帰国。ヨハネスブルグで優勝パレードをおこなったのが11月7日だった。
その日、チームを乗せるバスの駐車場としてヘルプメカール・カレッジが使われることになった。同校の生徒、ジョーン・ウーストハイゼンとボクスのLOエベン・エツベスが一緒に写った写真がメディアで配信されたからだ。
203センチのエツベスが小さく見えるほど大きな体躯の少年に注目が集まった。212センチ、130キロのウーストハイゼンは同校ラグビー部のLOだった。あっという間に有名になった。
その男は、いま埼玉県川越市にいる。今春、東洋大に入学。ラグビー部の一員となったからだ。
「2019年のワールドカップを見て、いつか日本でプレーをしたいと思いました」
現在20歳。希望していたタイミングより来日が遅れたのはコロナ禍の影響だ。
「高校卒業と同時に来たかったのですが、コロナ禍もあって実現しませんでした。なので、プレトリア大学内のクラブでプレーを続けて来日が可能になる時期を待っていました」
4月6日に来日。川越キャンパス内にある寮での暮らしも、そろそろ2か月が過ぎる。
4年生との2人部屋。備え付けの2段ベッドには体が収まり切らないから部屋を改造した。
現在は床にマットを敷いて寝ている。
すでに関東大学春季交流大会の2試合に出場した。
デビュー戦となった5月8日の青山学院大戦では5番を背負う。「緊張した」と振り返る。
「留学生で1年生。期待も大きいだろうな、と思ったので」
ラインアウトで活躍。自らトライも奪い、45-24の完勝に貢献した。
2試合目の出場となった5月22日の成蹊大戦は途中出場だった。「リラックスしてプレーできた」と笑顔を見せる。
キャプテンの齋藤良明慈縁(LO/FL)は頼もしいルーキーについて、「ラインアウトのディフェンスで凄く活躍してくれています。あれだけ大きいと、立っているだけで相手へのプレッシャーになる」と話す。
福永昇三監督も「将来性のある選手。まずはじっくり体を作り、慌てることなく、成長できるような環境を作りたい」と期待を込める。
インターナショナルレベルの選手たちを超えるサイズは、南アフリカでも別格だ。
「人生で自分より背が高い人に会ったことは一度だけ。230センチぐらいの人と道ですれ違ったことがあります」と話すほどだ。
その人は線が細く、ラグビーをやっているのかどうかも分からなかったという。
大男揃いのラグビー大国でも飛び抜けて大きな若者が、自分の方がサイズもパワーも上回る日本にやって来て学ぶものはあるのか。
「エージェントの方に、南アフリカで代表を狙わなくていいのか、と言われたことがあります。大学ではなく、最初から日本のトップチームでやればいい、という意見も聞きました。でも自分としては、新しい文化も言葉も学びたい。いろんな経験を積みたいと思った。まだ若い、急がなくてもいいかな、と」
日本ラグビーの中に身を置いて、学ぶべき点も感じている。
「テンポの速さは、南アフリカでのフィジカリティーを活かしたスタイルとはまったく違います。ラインアウトやキックオフキャッチのスキルもコーチから教えてもらっています。モールの細部へのこだわりは日本特有。参考になっています」
長く日本でプレーすることを望んでいる。
「南アフリカの少年たちの多くは、将来、スプリングボクスに入ることを夢みます。私もそうでした。でも日本代表になることも、私にとっては同じように誇りに感じることだし、憧れています」
自身の未来図を、そう口にした。
ヨハネスブルグで生まれ、育った。
地元のコミュニティーラグビーに加わったのが4歳のとき。インパラ小学校でプレーを続け、高校、大学と成長を続ける。
スプリングボクスの英雄、LOヴィクター・マットフィールド、WTBブライアン・ハバナに憧れていた少年時代。ゴルフも好きだ。タイガー・ウッズも幼い頃からのヒーローのひとりだ。
アスリートとしての才能の豊かさは、2021年のU20世界陸上競技選手権(ケニア)への出場実績からも分かる。同大会では円盤投げにエントリー。11位に入った。
秘める可能性はとても大きい。
「アフリカーンスと英語は話せます。日本語も頑張りたい。愉快な仲間たちに、いろんな言葉を教えてもらっています」
順応力の高さも、未来を照らす要素のひとつとなるだろう。