プレーの先にある笑顔を見たい。三股久典[宗像サニックスブルース]は、こんな人。
3季在籍したコカ・コーラレッドスパークスから移籍して迎えたリーグワン元年。
三股久典(SH)にとって、宗像サニックスブルースでの1年目は、同時にラストシーズンになってしまった。
今季、ディビジョン3の順位決定戦初戦を含む、実施された9試合中7試合に出場。4戦に先発した。
活動休止を決定したブルースのラストゲームとなる5月8日の豊田自動織機シャトルズ愛知戦にもベンチスタートでメンバー入りした。
1月22日の中国電力レッドレグリオンズ戦は、三股にとって思い出の日となった。
新天地でのシーズン初戦に先発できたからだ。
コロナ禍によりディビジョン3全体の開幕も遅れ、準備が難しい中で迎えた一戦。
「チームの雰囲気は少し硬く、自分もリラックスできていなかった」と振り返るものの、17-15と辛勝した試合でボールを散らした。
パスやテンポの良い球さばきなど、SHの基本は当然身につけている。
武器は体を張ったディフェンス。ジャージーの色が変わっても、信頼を得た。
先発、ベンチスタートと起用法に関わらず、安定感あるプレーを見せる。
以前は対戦相手だったブルースの中の人になってみて、「自由」を感じている。
「もちろん攻守に決め事はありますが、その中でいろんなプレーにチャレンジできる空気があるように感じています」
高速アタックの発信源となる任務を遂行する。チャンスとみるや仕掛ける。
前チームでは仕事とラグビーを両立させるスタイルだった。
いまはプロ。環境の変化を歓迎する。
「一日中ラグビーに打ち込めるようになりました。仕事とラグビーの両方に取り組むのはきつかったので、ラグビー選手としては、いまの環境は嬉しいです」。
自チームや対戦相手の映像。海外ラグビーのものを見る時間も増えた。
「映像を見る時間が増えると、アイデアを思いつくし、オプションも多くなる。実戦でもこういうシーンは見たことあるな、というケースがあるので(周囲と)共有しています」
体のケアに注ぐ時間も多くなった。
佐賀工、明大と、常勝チームに在籍してきた。いつも対戦相手が牙を剥いてくる立場だ。
「そんな中で、どんな時でも相手をリスペクトすることを心がけてきました」
絶対に負けない、負けられない。実力に関係なく、立ち向かってくる相手を全力で叩き潰すのが勝負の世界。
昨季までトップリーグで戦っていたブルースに、ディビジョン3の各チームは目を吊り上げて挑んでくる。
学生時代の経験が生きる。
大学時代の学びは多い。
明大は全国の腕自慢が集まる精鋭集団。その中で指導陣は自主性を求めた。
監督、コーチが徹底する基礎の習得にとどまっていては、良い選手にはなれても、競争は勝ち抜けない。日常から行動、言動に気を配って初めて試合で結果を出せると知った。
1年生時から試合機会を得るも、思うようにプレータイムを延ばせず、試合に出られない期間もあった。
そんな時、高校時代から支えてくれている方に言われたアドバイスに目が覚めた。
「天才ではないのだから、チームに必要とされていることを一つひとつやりなさい、と」
周囲に求められる存在になる。
視点が変わった。
大学を卒業して九州に戻ったのも、その方の言葉が参考になった。「誰のためにラグビーをしているのか」と問われた。
頭に浮かんだのは家族の顔だった。
日本中、どこにでも応援に来てくれる鹿児島の両親、そして姉。その近くでプレーすると決めた。
長く交際してきた彼女と昨年9月に結婚。コカ・コーラに社員として残る選択肢もある中、「やりたいこと、ラグビー優先で考えていいからね。どこでもついていくよ」と背中を押してくれた人が妻となった。
その存在も、前進し続けるためのエナジーとなっている。
「みんなフレンドリーで優しい。(移籍加入後)最初から仲間になれた」と話すように、ブルースの選手たちのことも大好き。
こちらもフアミリー。だから、身を投げ出して戦うのも当然のことだ。
小学校3年生時、鹿児島ジュニアRFCでラグビーをはじめたときの父の嬉しそうな顔を覚えている。
三股久典のラグビー人生は、身近な人やファンの笑顔とともにある。
そんな人生をとことん続けていきたい。