「チームとしてはリベンジ。個人としては代表入りに向けてアピールする!」李承信の決意【PR】
ゲームキャプテンとしてハードワークできたBR東京戦
トップリーグ同様にリーグワンでも初代チャンピオンを目指し、周到な準備をしていたコベルコ神戸スティーラーズが苦しんでいる。2018年度シーズンにウェイン・スミス-デーブ・ディロンの体制となってから昨シーズンまでの公式戦での敗戦は、わずかに「1」。
それが…。
「ジャパンラグビーリーグワン2022」第10節終了時点で、4勝6敗。新型コロナウイルスの影響により、2試合の不戦敗があったとはいえだ。思うような神戸のラグビーが展開できない中で、輝きを放つのが、21歳のバイスキャプテン李承信。
圧巻だったのは、初めてゲームキャプテンを務めた第9節ブラックラムズ東京戦。
「第8節で東京サンゴリアスに大敗した後、みんな自信をなくし、チームには重い雰囲気が漂っていたのですが、もう一度自分たちを信じて、地元のファンの前で強い神戸を取り戻そうと話し合い、試合に臨みました」
リーダーとして言葉でチームを引っ張ることはできないけれど、プレーで勢いをもたらそうとグラウンドへ。
ディロンヘッドコーチが「李はタックルされない特殊な能力を持っている」というように、開始3分、190cm・102kgの大型BKジョー・トマネをかわしてディフェンスの裏へと抜ける。その特殊能力を随所に発揮し、終了間際には「準備していた」というキックパスからダメ押しのトライを演出した。スコアは56−21。
第5節以来の勝利に貢献し、自身初となるプレイヤーオブザマッチに選出された。受賞を「素直に嬉しかった」と喜ぶ李自身が印象に残っているのは、後半6分、チームのミスからボールを奪われ、自陣深くにボールを蹴り込まれた場面だった。
「前半からチーム全体にアタックの意識が強くて、全員が前のめりの状態でした。そこでキックを蹴られてしまい、カバーディフェンスができる選手がいなくて、まずいと思った瞬間、とっさに体が反応して、戻ってセービングすることができました。ゲームキャプテンとしてチームのためにハードワークできたプレーだったと思います」と爽やかな笑顔を見せる。
スペースが見えるようになってきた。オラオラ系の承信、復活
センター、スタンドオフでプレーし、今やチームに欠かすことができない存在となった李が、チームに加入したのは2020年9月末。ジュニア・ジャパンのメンバーとして「パシフィック・チャレンジ」に出場した際に世界との差を痛感し、レベルアップを図るため、帝京大学を中退してニュージーランドへ留学を目指すも、コロナ禍の影響により頓挫。一時はラグビーをプレーする場所を失いかけたが、縁あってコベルコ神戸スティーラーズの一員となった。1年目は日本代表や世界的な選手がいる環境に萎縮していたという。
「緊張もあり足が地につかないような状態でした。リザーブで出た5試合もフワフワした心地でプレーし、どんな内容だったのか、ほとんど覚えていないですね」
今シーズンは公式戦でのプレータイムを伸ばすことを目標に、肉体改造に着手し1シーズン戦い抜ける身体を作り上げた。ラグビーに関しては自身の課題だと感じた試合中のコミュニケーションを改善しようと取り組んだ。オフシーズンの努力の甲斐あって、プレシーズンマッチでは5試合にフル出場。特に東京サンゴリアス、クボタスピアーズ船橋・東京ベイとの一戦は、「強いチームとの対戦でしたが、ラインブレイクもできましたし、相手のアタックを止めることもできました」と自信を得た。そうして掴んだ開幕スタメン。以来、全試合に出場する。ニュージーランド代表50キャップを誇るチームメイトで、スタンドオフとしてはライバルでもあるアーロン・クルーデンは「目まぐるしく成長しています。今シーズンの李は、自分を信じてプレーしていますね」と評価する。
李自身も「オフ期間中にたくさん試合を見ましたし、練習でいろんなプレーを試して、自分のやるべきことが明確になりました。それもあってか、余裕をもってプレーできるようになり、ここがチャンスになるとか、どこにスペースが空くとか、わかるようになってきています。昨シーズンは、周りがすごい選手ばかりなので、自分で仕掛けるよりも横にいる選手にパスをしようというマインドでしたが、今シーズンは自分で『いける』と思ったら、前に仕掛けられているところも違うところですね」と成長を感じている。
高校時代はどんどんスペースに仕掛けて、「オラオラ」系だったというが、いい意味で、そのようなプレーができているとも話す。
やられっぱなしで終われない!神戸のプライドを賭けて戦う。
いよいよリーグワンの戦いは、終盤戦へと突入する。第12節からは同じカンファレンスのチームと2度目の対戦となる。
「ブラックラムズ東京戦の勝利で、神戸のラグビーをすれば勝てると確信が持てました。前半戦は、自分たちのラグビーをすることができなかったことが敗戦の原因です。残りの試合では神戸のプライドを全面に出して、全試合に勝ち切りたい!」
3月10日、チームには「ラグビーワールドカップ2019日本大会」優勝メンバーで、南アフリカ代表のルカニョ・アムが加わった。さらに、昨シーズン、攻守で活躍した元オールブラックスの万能バックス、ベン・スミスの復帰が発表された。
「アムはシステムをすぐに理解し、もうすでにチームにフィットしています。アムとベンダー(ベン・スミス)。2人の加入はチームにとって大きいですが、彼らに頼るのではなく、チームとして全員がひとつになって、もう一段高いレベルの神戸のラグビーをします」と意気込む。
標榜するのは、優勝した2018年度シーズンから変わらず、スペースにボールを運んで攻撃を仕掛けるアタッキングラグビーだ。その中で李自身は「チームにエナジーを与えられるように、これまで以上に強みであるランやキックといったアタックを前面に出していきたい」と力強く宣言する。さらにシーズンに入る前は少しもターゲットにしていなかった日本代表入りを狙うと決意する。
「リーグワンの残りの戦いでもこれまで以上に良いプレーをして日本代表入りに向けてアピールしたい!」
コベルコ神戸スティーラーズのアタッキングラグビーを、試合を重ねるごとに凄みを増す李承信のプレーを見に、スタジアムへ足を運ぼうではないか。
文◎山本暁子(チームライター)