【ラグリパWest】リーチ2世。石橋チューカ [報徳学園/NO8]
西條裕朗のつぶやきを聞き洩らさなかった。
「リーチ マイケルより、将来はようなると思うんやけど…」
視線の先には石橋チューカがいた。チームメイトから頭ひとつ抜ける大きさ。褐色の肌。丸顔の中の瞳の輝きは勇気を伝える。
報徳学園の監督は新3年生のNO8に突き抜けた評価を与える。
リーチの寸評はラグビーマガジン作成のリーグワン『OFFICIAL FAN BOOK』にある。
<誰もが知る、頼れる日本のラガーマン>
BL東京(旧・東芝)に所属。バックローとしての日本代表キャップは72を誇る。
チューカはナイジェリア人の父と日本人の母を持つ。身長は188センチ。リーチより1センチ低いだけだ。昨年から高校日本代表候補に入っている。
「チューカはトライを取っても、取られてもその場にいてます。普通の選手はブレイク直後は三分の走り。たらたら行きます。でも彼は違う。最低でも八分。だから追いつく」
その骨惜しみしない動きを西條は特徴として話す。トレーニングのわずかな待ち時間、チューカはかがみ込まない。頭の後ろで手を組み、胸を張る。横隔膜を広げ、呼吸をしやすくする。教えられたリカバリーを守る。
西條は59歳。目は確かだ。日和佐篤、庭井祐輔、梶村祐介らの高校3年間に関わった。日本代表のキャップはそれぞれ51、10、1。日和佐は神戸(旧・神戸製鋼)のSH、庭井と梶村は横浜(旧キヤノン)のHOとCTBだ。
チューカはその幅広い機動力を生かすため、新チームではLOからNO8に下がった。
「トイメンに負けられないポジションです。僕が負けたら、チームも負けます。自分を強くしてくれる場所だと思っています」
尊敬する選手はイングランド代表のマロ・イトジェ。195センチのLOだ。
「身長が高いのに下働きをいといません。目立たないところでも仕事をします」
17歳とは思えない覚悟、そして着眼がある。
チューカは下宿生だ。自宅は西の姫路。学校は東の西宮。同じ兵庫県内だが遠い。そこでOBの高木重保の実家に住まう。登校にかかるのは自転車で10分ほど。高木は46歳。PRとして龍谷大からヤマハ発動機に進み、日本代表キャップ5を得る。
下宿先では、「おばあちゃん」と慕う高木の母・佐代子と2人で暮らす。父の純一は7年前に他界した。この学校で保健体育の教員だった。チューカは孫のように可愛がられている。ひとり部屋での気分転換は携帯での映画鑑賞である。
「海外のアクションものが好きです」
最近見たのはスパイダーマンの『ノー・ウェイ・ホーム』だ。