【直江光信コラム】 鉄は熱いうちに打て
(撮影:AKIHIRO HAYANAMI)
高校生の全国大会予選がいよいよ大詰めを迎えた。今週末には残る7地区で決勝が行われ、いよいよ花園に出場する51校の顔ぶれがすべて決定する。
今年の花園では、前年度大会のベスト4進出校のうち、常翔学園、御所実業、國學院久我山の3校が出場を逃す結果となった。全国4強の栄誉からわずか11か月後に味わう蹉跌。あらためて、毎年選手が入れ替わる高校ラグビーの難しさを実感する。
「(優勝の翌年の難しさは)やっぱりありましたね。いまの3年生はこの一年、ずっとプレッシャーを感じながらやってきた。その中でよくがんばってくれたと思います」
ディフェンディングチャンピオン、常翔学園の野上友一監督は、大阪府第1地区予選決勝で東海大仰星に敗れ痛恨の表情でそう語った。前年度の全国優勝チームから、今季は先発メンバー15人全員が入れ替わった。この日のスターティングラインアップのうち、3年生は7人。BKはすべて下級生で、7人中4人が1年生だった。ちなみに東海大仰星とは去年の府予選決勝でも対戦しており、その時は前年度準優勝校の仰星を下して花園出場を決めている。
「どのチームもみんなこの悔しさを味わってきた。また一からやり直しです」(野上監督)
同じ大阪の第3地区決勝では、優勝7回、かつて花園の頂点に君臨した常翔啓光学園が、大阪朝高の前に17−22で散った。これで最後に全国優勝を果たした2008年度の翌年から5年連続の予選敗退。自身は啓光学園、関東学院大で黄金時代を経験、この春より中学部の指導者から転じて高校を率いることになった川村圭希新監督の顔に、苦渋の色が浮かんだ。
「僕があまりにも微力すぎて…。かつての常連校のイメージを植え付けながらやってきたつもりですが、ここ数年全国大会に出られていないこともあって、今は『花園慣れ』という気持ちの部分で、相手との関係が逆転してしまっている。そこを僕がコントロールしてあげられなかった」
埼玉県予選決勝では、浦和の渾身の攻守の前に深谷の連続出場が「5」で途切れた。この3年間は山沢拓也という希代の才能に恵まれ、傑出した個の力が細部の綻びをカバーしていた側面もあった。だからこそ、「自分自身、この1年はすごく大事な意味があると思ってやってきた」(横田典之監督)。涙も涸れる7点差の惜敗の後、実直の指揮官は何度も「悔しい」と口にした。
「自信を持っていたプレーでミスが起こったり、こぼれ球がことごとく相手側に転がったり。いろんな準備をしてきたつもりだったけど…負ける時ってこういうもんですよね。勝たせてあげられなかった。(予選敗退は)6年ぶりですか。年末年始の過ごし方がわからなくて困ります」
仕事とはいえ、敗戦の直後に深く肩を落とす監督やコーチ、選手からこうした話を聞くのは、取材者としても切ない。なにか気の利いた言葉でもかけられればいいのだけれど、本物の真剣勝負を終えた人の前ではすべてが薄っぺらに感じられて、いつも口を開くのを躊躇してしまう。だからせめて、最後まで勇敢に戦い、敗れてなお威厳をたたえる誇り高き姿は、目撃者としてしっかり記しておかなければと思う。
血のにじむような努力を重ねてこの一年を過ごしてきた指導者や選手に対して、簡単に「また来年がんばってください」とは言えない。これだけ精根尽くしてやってこられたのだから、しばらくはゆっくりされてください。そう伝えるのが精一杯だ。ただし、ほぼ一年中試合が行われる高校ラグビーでは、シーズンの終わりは新たなシーズンの始まりでもある。ゆっくりしている暇もなく次なる戦いへ向け準備をしなければならないのだから、大変だろう。
そして、新たなスタートを切る上で、敗戦で味わった悔しさは、大きな力となりうる。
2013年1月3日。準々決勝で茗溪学園に敗れ、実に4年ぶりとなる花園での黒星を喫した東福岡の藤田雄一郎監督は、試合後に悔しさを押し殺した表情で言った。
「勝ち続けることでいろんなことが当たり前になっていた。でも、勝って当たり前なんてことはないんです。やっぱりどこかでこういう経験は必要だし、東福岡もこの敗戦を栄養剤にしなければいけない。大切なのは、次にどういうチームになれるかですね」
人間、どん底からはい上がるエネルギーが一番大きい。そのエネルギーを上昇気流につなげられた者が、次なる歓喜を手にできる。「鉄は熱いうちに打て」。新たな戦いは、もう始まっている。
【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。