チームマン・天野寿紀(横浜キヤノン/SH)のチーム愛と責任感。
入団9年目のシーズンを迎え、チーム在籍年数は現役最長となった。
だからこそ思うのだ。
イーグルスのラグビーってなんだ?
そう問われた時、明確に答えられるものを築いていないといけない。そうでないと、チャンピオンチームにはなれないと。
横浜キヤノンイーグルスのSH、天野寿紀(あまの・としき)はチームマンだ。明るく、元気で、外国人選手へのアプローチも含め、背番号9の役目同様、人と人をつなぐ。
社員選手として過ごした4年間を経てプロ選手になった。
そうでなくとも1年1年、必死に勝負してきた自負はある。そして、仲間たちの引退、移籍によってチームの顔ぶれが刻々と変わっていく様子を見て思いが強くなった。
「自分のことだけでなく、チームのことを考えることが多くなりました。周囲にも目を向けるようになった。自分たちは、なんのためにラグビーしているのか。ラグビーをする意義を考えるようになっています。その結果を出すために、どんな取り組みをしなければならないのか、と」
長くイーグルスに在籍してきたから、チームに漂う空気の変化を知る。
昨シーズン、沢木敬介監督、田村優主将が就任したことにより、価値観が変わった気がしている。
「ラグビーの勝ち負けだけではない、部分がある。イーグルスは、ここを大事にしている。こういうチームカルチャーを持っている。そういうものを、明確に言えるチームになりたいと思っています」
チーム愛。
沢木体制になって打ち出された、その方針を気に入っている。
「みんながこのチームを好きだと言えるようになろう、と。なんのためにラグビーをやるのか。そこが大事。カメラ(が主力)の会社です。観る人の記憶に残る存在となり、写真を撮りたくなるようなパフォーマンスを披露しよう。そう言っています」
その実現のため、チームはハードワークを厭わぬ集団になりつつある。
「お互いを知り、チームのことを好きになれば、あと一歩走れるし、タックルにもいける、体を張れる。共通の目的を持った組織は強くなる。一人ひとりが、よりチームに関わるようになってきた」
その結果が、トップリーグ2021での準々決勝進出だった。
上昇気流に乗りつつあるイーグルス。しかし、まだ道半ばであることは分かっている。このまま右肩上がりの成績を残すことも、約束されたものではない。
プロ選手としては、まずは結果を残すことが大事だ。昨季は2試合の出場に終わった。「どんな立場でもチームの力になることを考えている」とはいえ、やはりピッチに立ち、プレーで勝利に貢献したい。
日本を代表するSH、田中史朗がNECグリーンロケッツ東葛へ移籍した。後輩の荒井康植が代表に選出されるなど力を伸ばしているものの、チャンスが大きくなっているのは間違いない。
存在をアピールし、好機を掴みにいく気持ちは強い。
トップリーグ2021終了後のオフを振り返り、「自分の準備にかけられる時間が多くありました。課題にも取り組めた」と話す。
「沢木さんのラグビーでSHに最も求められるのはフィットネスです。しんどい中でも、質の高いプレーを出せるかどうか。スピードトレーニングとフィットネスに加え、スキル向上にも取り組みました」
結果、8月末に始まったチーム全体練習初日におこなわれたフィットネステストでは、パーソナルベスト相当の数字を出せた。
自分だけでなく、BK全員が示されたターゲットをクリアできたことも嬉しい。「昨季やったことに上積みできる感じがしています」と言う。
2試合の出場に終わった昨シーズンも、停滞していたわけではない。「開幕への準備を始めた頃の自分と比べれば、シーズンが終わった時にはパフォーマンスが高まっていた」感覚がある。
ポジション内で切磋琢磨した結果だった。
「4人のハーフがいて、(各)試合に出られるのは2人だけ。フミさん(田中)はゲームコントロールがうまい。コウキ(荒井)はパス、キック、僕ならディフェンスと、それぞれの得意なところを教え合い、高め合いました」
そんな関係性があったから試合を外から見つめることになっても、ライバルに対し、素直に「頑張ってくれ」と託すことができた。
世界で戦ってきた田中から学んだことも忘れない。
「フミさんのコントロールは本当にうまかった。そして、常に全力。練習から、絶対に手を抜かない。こういう人が、あの年齢まで世界と戦えるんだな、と思いました。負けず嫌いで周囲を鼓舞し、全体のスタンダードを上げてくれる人。すごいな、と思いながらも負けられへんぞ、と思っていました」
自分も、自分なりのやり方で、チームの力になりたい。
注目されるリーグワン開幕に向けイーグルスは、9月下旬から10月あたままで菅平で合宿を張るなど、準備を進めている。
個人的にも3か月後のシーズン開始を睨み、「プロとして、準備したことをしっかりグラウンドで表現したい」と話す。
ただ前述のように、「自分が出る、出ないがすべてではなく、チームが勝つために、自分のできることを100パーセント出す。どんな立場でも、準備してきたことをしっかりやる」と繰り返す。
根っからのチームマンだ。
全体練習が始まり、監督が言った。
「しっかり準備をしていけば、わくわくするもの。やってきたことを早く出したい、早く試合(の日)が来てほしいとなるはず。そんなふうに、プレッシャーも楽しめるチームになろう、と」
同感。「SHとしても、ベテラン選手としても、チームがそうなれるように力になりたい」と誓う。
「それができれば、実際に自分がプレーした時にも活躍できると思っています」
リーグワン1季目が終わる来年5月、いまより進化している自分がきっといる。チームも、もっと強くなっているだろう。
もうすぐ31歳。まだ31歳。
楽しみは尽きない。