「冷静」な試合運び。パナソニックの松田力也、先発SOのタスクに手応え。
最初からそうできればよかったけれど、との前置きを忘れず、パナソニックの松田力也は言った。
「前半、トヨタ自動車さんもプレッシャーをかけてくるのは分析通り。そこにはまってしまったなか、チーム全体で自分たちの仕事をどう(全う)するかのコミュニケーションを取って、時間を重ねるなかで自分たちの流れにできた」
5月15日、大阪・東大阪市花園ラグビー場。国内トップリーグのプレーオフ準決勝に司令塔のSOで先発した。
序盤は対するトヨタ自動車のパワーに押され一時10点差をつけられたが、時間を追うごとに形勢逆転する。多彩なキックとそれを追いかける動きをシンクロさせ、前半21分、敵陣の深い位置でペナルティゴールを獲得。8-15。この1本を成功させた松田は、続く24分に敵陣22メートルエリアでドロップゴールも決めた。
「点差的には離されたくなかった時間帯。トライが取れればベストですが、3点でも…とプレーしていた。ドロップゴールをゲームで決めたのは初めてでしたが、チャンスがあれば狙うと話し、イメージを持っていた」
セットプレーから攻め込む際は、防御をえぐるサインプレーはあえて用いずに簡潔なパスとコンタクトに終始。ここにも意図があった。
「まずはゲインラインを取る(攻防の境界線を前に押し出す)ことをチーム全体で意識していたので。前半の段階でコンタクトをして相手にプレッシャーをかけられたらいいなと、チームをコントロールしていました」
前半33分には17-15とリードを奪う。以後はシーソーゲームを強いられるも、1点差を追う後半20分には、その3分前に途中出場の山沢拓也がトライ。松田のゴールキック成功で27-21とリードした。殊勲の山沢は「結果として点が取れた」と、それまでの足跡に価値を見出した。
「(自身が)点差こそ開いてなかったですけど、途中から入ってきた人が相手の足が止まったところを突いていこうと、最初から狙っていた。そこでたまたま自分がトライを取れたってことで、チームとしてやりたいことができた」
先発陣がキックと防御を軸にした試合運びで向こうのエナジーを削っていたらしく、そこで舵を取ったのが松田だった。
2017年の加入以来、2018年度まで在籍した元オーストラリア代表のベリック・バーンズ、同級生で日本代表経験のある山沢と定位置を争ってきたが、今季は先発に定着。高いレベルの舞台で「はじめからゲームを作る」という作業に、徐々に慣れつつある。
「リザーブ(ベンチスタート)からだと試合を(ベンチから)観て入れる分、楽なのですけど、スタートから出ると、相手が分析していたのと違う時に判断してやっていかないといけない。そこで落ち着いて、冷静に、周りとコミュニケーションを取ってできるようにはなってきて、手応えを感じています。もっと、プレッシャーに負けずにプレーできるようになっていきたいです」
2019年のワールドカップ日本大会では、日本代表が挑んだ全5試合でリザーブ入り。4月に発表された2021年度日本代表候補にも名を連ね、約2年ぶりとなる6月のツアーへの参加を目指す。まずは5月23日、東京・秩父宮ラグビー場でのプレーオフ決勝でサントリーにぶつかる。