春は「亀」で夏はマスク。久保優が振り返る2020年の早大スクラム練習。
デスクトップ上に「亀」が並んだのは春のことか。
社会情勢の変化により4月上旬に一時解散を余儀なくされた早大ラグビー部のFW陣は、オンライントレーニングでスクラムを組む時の体勢を取った。
膝を曲げ、背筋を床と並行に伸ばす。通称「亀」の姿勢だ。担当の佐藤友重、権丈太郎両コーチが全選手の「亀」を画面上で観察し、形が崩れたら指摘する。
「やることが限られてくるなか、逆にやることが明確になりました。基礎を徹底できたのがよかったです」
こう振り返るのは久保優。当時は東京・上井草の寮に残った。昨年と同じようには活動できないなか、置かれた状況を前向きに捉える。
秋は深まる。チームは10月4日開幕の関東大学対抗戦Aで開幕5連勝中だ。11月23日には東京・秩父宮ラグビー場で残された2試合のうちのひとつ、「早慶戦」こと慶大戦を迎える。本拠地グラウンドの入口には「緊張」の書を貼る。
12月に参戦する見込みの大学選手権では2連覇を目指す。最上級生の久保は「試合内容は少しずつまとまってきて、レベルが上がっていいところが増えている。勝っていることにおごらずがんばっていきたい」。昨季、右PRから左PRへ転向したスクラム最前列の4年生は、こう続ける。
「自分ができることはタックルで身体を張ること、周りとコミュニケーションを取ること、スクラムで早大が勝てるようにがんばること。自分のできる仕事を徹底し続ける」
身長178センチ、体重110キロ。福岡の太宰府少年ラグビークラブ、筑紫高を経て2017年に早大入りした。
学生ラストイヤーにあって不測の事態に出くわしたが、仲間がばらばらになっていた時期にも、再集合した6月中旬以降にも力を蓄えられた。
思い出されるのは、8対8で組み合うスクラムの練習。夏の暑い日にマスク着用のもとおこなった。
汗をかき、息のしづらい状態でタフに組み込み、「きつい状況のなかで自分たちの精度を保つ点で、作用してくる」と直感。そう。ポジティブな哲学を曲げなかった。
「最初は感染を防ぐのが目的だったと思いますが、(この練習の)捉え方を考えた時、『(試合などで)きつい時にも精度を上げなきゃいけない』となりました。きつい状況を作れたという意味では、必要な練習でした」
11月1日の帝京大戦を例に取れば、先発FWの平均体重は相手の109キロに対し自軍は100.75キロ。早大には重さに頼らぬち密さが求められており、互いの密着感や高さの統一性といった「精度」は最重要項目となりそうだ。
その帝京大戦で押し込めた場面と押された場面を久保が振り返る時、鍵に掲げるのは動作の正確性だった。
「いいスクラムが組めた時は、セットアップ(相手と組み合う前の準備)から集中して組めた。押された時はボールが(足元へ)入る時に1列の高さが浮いてしまうなど、反省点が明確でした。常に早大のしたいことを意識してやる。それを、練習から意識しています」
たとえスタミナが消耗した時間帯でも、相手よりも低く、まとまって組みたい。そんな「早大のしたいこと」の実践を他の7名に促すべく、自身がまず隣のHOと脇を密着させたい。「亀」とマスクで鍛えた久保は、そう心に誓う。
「相手に合わせるより、自分が組みたいスクラムを常に求める。8人全体で組めるよう、自分が(味方とのつながりを)割らないように意識します」
まずは、晩秋の秩父宮で有言実行する。