自粛中はジムとクロカンコース。専大・夏井大樹主将、菅平行き断念も「最後は笑いたい」。
今年の日本の大学ラグビー界にあって、複数のチームが夏合宿を中止している。要因は新型コロナウイルスの感染拡大。関東大学リーグ戦1部の専大も、この夏は昨年まで通い続けた長野・菅平へは行かなかった。本拠地の神奈川・伊勢原市へ止まった。
「(菅平に)行くか行かないかの判断について(首脳陣から)相談をされたのですが、『(現地で)試合をしたい』と言う人もいたし、『向こうでもしものことがあったら』と考える人もいた。どうするか、悩みました。最終的には、監督の判断で決めました」
意思決定の過程を振り返るのは、夏井大樹主将。公式で身長173センチ、体重85キロと小柄ながら、仕事量の多いCTBだ。特異に包まれながらも、前向きに語る。
「ラグビーは皆でやるスポーツ。きつい練習を皆で頑張ってきたので、最後は笑いたいです」
5歳でラグビーを始めた。秋田の船川一小ラグビースポーツ少年団へ、兄の勇大と同時期に加入した。
専大入りの際にも、兄の存在に背中を押される。全国高校ラグビー大会に出場した秋田中央高2年時、会場の東大阪市花園ラグビー場で元日本代表SHの村田亙監督と邂逅(かいこう)。当時すでに専大入りの決まっていた兄へ挨拶した村田監督から、弟はこう声をかけられた。
「お前も、採るから!」
3年時になると改めて、入寮済みだった兄からチームの雰囲気を聞いて専大のセレクションを受けた。入学年度の2017年、加盟する関東大学リーグ戦で2部から1部へ昇格。2年時以降は主力入りし、1部での順位を7位、5位と上昇させる。
部内投票で主将となった今季は、1月下旬に新チームを始動させた。ウェイトトレーニングやスキル練習で下地を作り、3月からはコンタクト練習を導入。徐々にペースを上げていたところ、まさかのコロナ禍に巻き込まれた。
全80名中60名以上が帰省。寮に残った夏井は、各地に散った仲間とのコミュニケーションに心を砕いた。
「帰省すると気の緩みが出てしまう。(LINEやZoomなどで)頻繁に声をかけました。練習メニューを共有し、(進捗度合いを)報告してもらっていた。やっているな、と感じながら過ごしました」
残留組は、伊勢原の寮やジムを野球部と共同で使用。「ウェイトをするのは午前中がラグビー部、午後は野球部」と、互いにとって最適な時間配分を施す。
身体を大きくすると同時に、自分の長所も見つめ直した。「自分はフィットネス(持久力)が強み」とし、当時の日課を明かすのだった。
「(伊勢原の敷地内には)クロスカントリーのコースもあるので、自由に、走っていました」
帰省組が段階的に本拠地に戻り始めたのは7月以降のことで、本格的なコンタクト練習を再開させたのは8月上旬。雌伏期間には過去の試合映像も見返していて、そこから抽出した「いかにシンプルに攻め切れるか」などの課題を日々の練習で意識する。合宿へ行かずして成長したい。
9月は練習試合に臨み、10月からとみられるシーズンインを見据える。中断前から掲げていた強化ポイントは防御だ。大型留学生を擁するライバルに対抗すべく、低く鋭いタックルと運動量に活路を見出す。
「(勝利の)イメージは、ついています。いまは暑いなか、短期集中で練習しています。タックル練習のできる本数も少ない。だから、地道に一つひとつの練習を大事にする。一つひとつの練習に、全力で取り組みます」
トップレベルでのプレーは今季限りの見込み。仲間と元気に最後の冬を迎え、目標の大学選手権出場を果たしたい。