コラム 2020.08.14

ラグビー金言【22】自分で考える。信念を持って伝える。

[ 編集部 ]
【キーワード】,
ラグビー金言【22】自分で考える。信念を持って伝える。
スクラム番長からスクラムドクターへ(中央が長谷川慎コーチ)。独自性があるから、引き出しがいくつもある。(撮影/松本かおり)



 2019年におこなわれたワールドカップで史上初の8強に躍進した日本代表。その進化を支えたもののひとつがスクラムだった。日本のスクラムドクター、長谷川慎コーチが独自の理論を教え込み、選手たちも、それを自分のものに。
 各局面で対応力の高いパックになった。

 スクラムが強くなった理由を選手たちに聞けば、右プロップの具智元は必ず「シンさんのスクラムを組んでいますから」と答える。長谷川コーチ自身、大会後には、道を歩けば、「あ、スクラムの人ですよね」と声をかけられることもあった。

 スペシャルな指導者は、どこかにあるものを持ってきて選手に伝えたのではない。自分で作り上げた理論だから、迫力と説得力がある。選手たちの深くまで入り込んだ。

【長谷川慎コーチの金言】

 ジャパンのスクラムを高みに導いた長谷川コーチ。その指導法は、長い時間をかけて積み上げたものだ。
 2011年、ヤマハのコーチに就任する前に単身でフランスに渡るなど、見聞を広め、長谷川慎独自のスクラムを作り上げていった。

「フランスに行ってわかったことがありました。あちらに行けばフランスのスクラム、というものを学べると思っていたのですが、そんなものはどこにもなかった。ただ、それぞれのクラブに、スクラムに情熱を燃やしているコーチがいて、彼らが独自に考えたものが、それぞれのクラブで生きていた。つまり自分で、オリジナリティーのあるものを考える。そして、それを信念を持って伝えることが大事。そう気づきました」

 ワールドカップスコッドには、中島イシレリやヴァルアサエリ愛など、経験の浅い選手たちもいた。彼らが短期間で国際レベルに達したのも、その指導法を受けたことと無縁ではないだろう。ただ、長谷川コーチは、彼らに対して(経験値の少ない選手用の)特化した指導をしなかった。

「そうすれば、スクラムがうまくいかなかったとき、周囲がその原因をふたりのせいにする。そうなるとバックファイブがさぼりはじめます。だから、『イシレリが組めないのは、このシステムの中で誰かが気を抜いているから』と指摘しました。そうしておいて、イシレリやヴァルとは、ふたりになったときに個人的なことを話す。ただふたりとも真面目で、僕がイシレリと話していると、それをヴァルが近くで聞いている。その逆もある。ふたりとも、強くなりたいと思う才能がある。だから、短期間で伸びた」

 日本のスクラムのレベルを引き上げた同コーチ。しかし、昨年のワールドカップで日本代表が世界の強豪と対等にスクラムを組めたのは、自分たちだけで成し遂げたわけではないですよ、と言う。

「これまで、スクラムに情熱を注いだ人たちがたくさんいて、その歴史の先に今回(2019年)がある。日本全国のフロントローが、俺たちそんなに弱くないで、と思ってくれたはずです。それが本当に嬉しい」


PICK UP