コラム 2020.08.12

【ラグリパWest】ハルキストを作る。太田春樹 [近鉄ライナーズ スクラムコーチ]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】ハルキストを作る。太田春樹 [近鉄ライナーズ スクラムコーチ]
母校・同志社大のコーチを3年やり、今年度から近鉄に戻ってスクラムコーチになった太田春樹さん。



 ハルキストを作る。
 といっても、ノーベル文学賞の話ではない。
 ラグビー、近鉄ライナーズ、スクラムコーチ…。

 太田春樹。33歳。
 今年4月、母なるチームに戻る。7人いるコーチの中では唯一の社員である。
「育ててもらった恩返しとして、勝つ集団を作っていきたいと思っています」
 現役時代はHO。身に着けた押し合いの哲学を後輩たちに伝える。

「スクラムは大事。攻守のスタートはもちろん、ペナルティーをとる、とられるがあります。キックで40メートルをゲイン。あるいは40メートルを戻される。PGの3点をとる、とられるにつながってきます」

 コロナの影響により、スクラム練習を始めたのは7月中旬。1対1から始め、今は6対6や7対7まで人数を増やした。あえて両FLやNO8を外したりする。
「力を前に伝える大切さを知ってほしいと思ってやっています」
 キーワードは「SOLID」(固まる)。
 目指すのは、神野崇、川崎守央、原進、浜辺和ら世代こそ違え、日本代表の第一列に選手を送ったスクラム王国の復活である。

 チームの現場責任者となるGMの飯泉景弘は頼もしく見やる。
「ハルキはよくやってくれています。練習後には誰かしらに居残りトレーニングをさせ、それに付き合っています」

 コロナで団体練習ができなくなる以前から、太田は柔軟性や体幹の向上に取り組む。
「柔らかさはむちゃくちゃ大事。特に股関節。可動域が広いと組み方が変わります」
 相手の高低に反応できる。
 座って立膝して、もう片一方の脚をひねる簡単なエクササイズから始められる。

 近鉄では2009年度から7シーズンを戦った。現役が短かった理由は、脳しんとうの慢性化。その長くはない間でも、トップリーグ最高の5位を経験した。3年目だった。
「あの時は会社がイベントを打って、入場無料にしてくれました。おかげで、花園がお客さんでいっぱいになりました」

 翌2012年、日本代表にも選ばれた。11月の欧州遠征に参加する。ルーマニアを34−23、ジョージアを25−22と連破したテストマッチは堀江翔太(パナソニック)が連続出場。キャップを得る機会には恵まれなかった。

 ヘッドコーチだったエディー・ジョーンズに言われた。
「インターナショナルの選手としては体が小さい。マインドセットもできていない」
 当時のサイズは175センチで100キロほど。いきなり選ばれたため、桜のジャージーへの執着も乏しかった。1学年上の堀江は現役を続け、キャップを66に積み上げている。

 しかし、ノンキャップの悔いはない。
「それでよかったと思います。簡単に取れるもんじゃない、ということが分かりました」
 今、自分の届かなかった領域に、ひとりでも多くの後輩たちを押し上げたい。コーチになれば、評価はそこでつく。

 太田は、大阪の旭東中時代、野球をしていた。3年秋、ラグビー部監督の角田眞章にすすめられて初めて試合に出てみる。
「当たって、飛ばして、トライを獲りました」
 角田は天理から大体大に進んだHO。太田の身体能力に驚き、母校へいざなう。

 天理では1年からLOとして純白ジャージーに袖を通す。HOだった3年時は全国大会(=84回、2004年度)で決勝に進出。啓光学園に14−31で敗れた。現校名・常翔啓光は戦後初の4連覇を記録する。
 高校3年間は猛練習の思い出が残る。
「何人か倒れた記憶があります。毎日、ランパスを1時間くらい走っていましたから」
 100メートルの全力疾走で蓄えた体力が、同大や近鉄へ道をつなげることになる。

 大学では主将になった。
「夏に右足首を骨折して、練習に出られないはがゆさがありました。口ではなく体で見せるタイプでしたから」
 大学選手権(=45回、2008年度)は、初戦で流経大に31−8勝利するも、8強戦では東海大に31−78で敗れた。

 同大では2017年から3シーズン、フルタイムでコーチをつとめた。出向の形をとった。社内では総合職。鉄道、不動産、百貨店などを束ねる近鉄グループホールディングスの社長になれる可能性がある。

「母校ではチーム運営や選手への接し方など勉強になりました。ただ、勝たせられなかったことが申し訳なかったです」
 それでも、関西リーグは6、5、2位と右肩上がり。最終年は3大会ぶりに大学選手権(56回)に出場させた。初戦で筑波大に17−48と敗れるも一定の結果は残した。

 その3年で得たものを話す。
「ひとり一人をよく見る」
 何をしようとしているか観察して、間違っていれば正道に導く。その助言をする。選手個々の沸き上がる意志を大切にする。

近鉄は来年開幕する新リーグで4強入りを目指している。
 太田には目標にしているチームがある。
「ヤマハですね。スクラムで試合に勝てますから」
 水色のスクラムはコーチの長谷川慎が2011年から6年をかけて強化した。
 それを見習い、「大好き」と表現する紺エンジのため、情熱を傾ける。


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