2連覇目指す早大のいま。新型コロナで活動自粛も丸尾崇真主将は「不安」と決別。
昨季の大学選手権で11季ぶり16度目の日本一に輝いた早大ラグビー部の丸尾崇真が、活動自粛中の4月23日、都内の寮の自室でオンライン取材に応じた。「悲観しているわけではない」と、連覇へ決意を新たにした。
振り返れば、前年度の決勝を制した時も喜んだのは一瞬。「自分の代で勝たなきゃ意味ねーな」と、すぐに思い直したものだ。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う現状にも、「こういう大変な状況で、自分が主将になってチームをどう日本一にするか…。言い方は悪いですが、楽しんでいる」と淡々と話すのだ。
「そうやって切り替えられたのも僕のいいところだと思います。しばらく(状況は)変わらなそうだなと感じましたし、文句を言ってもしょうがないと言えばしょうがない。(この先)試合があるのかないのかもわからないですけど、あることを信じて、決勝で勝つことを信じてやれることをやろうと話しています」
大学側から部活動の自粛要請を受けたのは3月下旬。グラウンドやトレーニングジムなど、学校の施設が使用禁止となった。
ちょうどその頃には、4月中旬からの関東大学春季大会の中止が告げられていた。1918年の創部以来有数の緊急事態を受け、併設の寮に住む部員の一部は自己判断で実家へ戻る。
もっとも丸尾は、「僕の場合は実家に帰ってもトレーニングができなさそうで、家族が仕事などで出入りが激しいのかもしれない」。安全面を考慮し、その場にとどまった。コーチ陣がいないなかでも「決勝」を見据え、自己流の個人練習で己を鍛えている。
ゴムバンドで楕円球をくくりつけた大きめのタックルバッグを人に見立て、刺さって倒す。起き上がると同時にボールに腕を絡める。FW第3列の選手として長所にしたい、ジャッカルの技を磨くのだ。
「春はチーム内の入れ替わりが激しい、個人の成長が求められていた時期。下のチームの選手、上のチームに上がりきれない選手にとって、自分を評価してもらうためのポイント(練習や春季大会などの試合)が少なくなるのはマイナスだとは思うんですけど、自分にフォーカスできるとも取れる。自分に足りないことに100パーセントの力を注げる意味では、(現状も)ありだと思います。妥協しちゃいそうなところなのですが、妥協しないで積み上げていく」
大所帯のクラブの船頭役としても、取るべき態度を取る。
実は2月中旬の新チーム始動に際し、部員をさまざまなポジション、学年が交わる6~7名のグループに分割。各組での意見交換を促し、その活力を組織力につなげようとしていた。
一人ひとりが本気で、それぞれの手法でAチームを目指している…。お互いがそう実感し、刺激し合うチームを丸尾は作りたいのだ。
「下のチームの選手は、自信がなかったりしてAチームを目指すマインドをはっきりと言いにくい部分もあると思う。上のチームの人も『いまは(試合に)出られているけど、このままでいいのかな』とぼんやりしがち。そこでまず、何でも言い合える場(グループ)を作る。下のチームの選手も同じグループ内の4年生になら何かを言えて、その環境が(結果的に)皆がグラウンドで自分の思っていること(Aチーム昇格への意欲や具体策)を自分の言葉で言える状態を作れるのかなと…。僕はチーム内でも本気の戦いをしたいと思っている。Bチームの選手にもAチームを目指すマインドを持ってもらう。そうじゃないと、その選手が今年出られないだけじゃなく、その選手の4年間が台無しになる」
一人ひとりの主体性を引き出すためのこの仕組みは、仲間がグラウンドに集まれなくなってからも機能している。
各グループは週に1回のペースでオンラインミーティングを実施。ミーティングとミーティングの間には国際試合を2つ、同グループ内の選手の過去のゲームを1つの、計3試合映像をチェックし、顔を合わせるやその感想を述べ合うのだ。
丸尾は「チームスキルは上げられないけど、考え方を上げよう」と、その意図を語る。自身も同グループの後輩たちと、試合中にうまくパスを回しきれなかった欧州の代表チームついて「もし自分なら誰をどこに配置し、どうボールをつなぐか」を討議。ハイレベルなゲームにも、当事者意識を持つ。
「普通に楽しんで観るのもいいですけど、分析的な観点から観る(のも大事)。このチームはどういう強みを持ち、どう攻めたいのか。相手はそれをどう封じ込めて得点したいのか。そういう視点で観るのは、難しいですけど、おもしろいです」
当初は5月10日の再集合を目指していたが、実際はどうなるかわからない。しかし丸尾は「よくわからないいまの状況、決まってもいないことに心配したり、不安を抱いてもしょうがない」と周りと自分に言い聞かせる。
いま積み重ねているすべてを、2020年度の大学選手権決勝の相手にぶつける。