8月10日の夜、濃密な関係性の2人が最高峰のゲームを盛り上げる。
1人はラグビー元日本代表の齊藤祐也さん。現役時代は自身も豪快に走るナンバーエイトとしてフランスでもプレー。現在は子ども向けのスポーツ教室などを運営しながら、試合解説、さらにはドラマ出演にも活躍の場を広げる。TBSドラマの『ノーサイド・ゲーム』で社会人チームの選手役を務め、現役時代と似たプレースタイルを披露しているのだ。
もう1人は伊藤宏明さん。こちらはクレバーなスタンドオフとして活躍した元ラグビー日本代表選手で、イタリアへ挑戦した過去を持つ。昨年は母校である明治大学のコーチとなり、チームを22シーズンぶり13度目の大学日本一へ導いた。
伊藤さんは齊藤さんにとっては明治大学で2学年違いの先輩。いわゆる「イチサン」だ。
「(学生時代は)話かけちゃいけなかったですから!」
冗談交じりにこう話す齊藤さんの隣で、伊藤さんは黙って笑う。齊藤さんが「最近ではコーチングについていろんな質問をさせてもらいます。宏明さんの発想はおもしろいですし」と言えば、伊藤さんは謙遜する。
「…まぁ、他の人がどうなのかはわからないから何とも言えないです」
こちらの仲の良い2人が、DAZNのラグビー中継で解説コンビを組むこととなった。配信開始時間は日本時間で8月10日22時だ。
カードはアイルランド代表×イタリア代表。今年秋に開かれるワールドカップ日本大会に向け、欧州上位国の動向をチェックできる貴重な80分である。特にアイルランド代表は同大会で日本代表と一緒のプールに入る。ラグビーファンは大いに注目するだろう。
「ワールドカップの直前。アイルランド代表も100パーセント(の状態)で来ると思います。長らく北半球のラグビーはキッキングが主体でしたが、南半球の要素(展開力)が入ってきて変わってきた。進化しています」
数年来、解説業を務めてきた齊藤さんは、過去の観戦歴に基づき見どころをこうまとめる。
かたや今回が初解説となる伊藤さんは、自身が渡った経験のあるイタリアのラグビーについて「当時は世界ランクで日本代表よりイタリア代表の方が上でしたが、『これ、(日本代表も)勝てるよなぁ』という感じでしたよ。フィジカルは強いと思いましたが。で、いまの日本代表は普通にイタリア代表に勝っているじゃないですか」。興味深いのは、自分の目線、心におもむくまま話してくれそうなことだ。
例えば、アイルランド代表のスタンドオフで注目株のジョナサン・セクストンに話が及んだ時。「セクストンって、すごくいい選手って言われるじゃないですか。でも、セクストンの良さを語れと言われて、語れる人はそんなにいないと思いますよ」とし、こう続けるのだ。
「皆にいいと言われているからいいと思う。ただ、センターがあんなに活躍できるということはそう(いいスタンドオフ)なんでしょうね…。ちょっと1回、観てみます。じっくり」
ただでさえ重厚なテストマッチ(代表戦)の放送が、話者の視点と関係性でより濃密なものとなりそう。さらに当日は、SNSで募った質問に2人が直接答える場面もある。DAZNのラグビー中継では初の試みだ。齊藤さんと伊藤さんは、それぞれこの調子で心を弾ませる。
「こういう試み、いままであまりなかったですよね。例えばゲームが動いているなか、ファンの方が『なんでこんなプレーを?』って聞いてきたら、それに僕らが答えることもあるんですよね。ライブ感がある」
「昔の早明戦中継では、ハーフタイムにハガキの質問を読み上げられたこともあったような。でもSNSとは! 話題になりそうでいいんじゃないですか」
当日の解説は、齊藤さんにとってはドラマ撮影の合間、伊藤さんにとっては明治大学の練習試合の前日におこなわれる格好。気心の知れた2人のくだけた会話のなかから、鋭い視線が垣間見えそうだ。