選抜大会に出場したテニス部からの助っ人。ラグビー部に「温かく迎えてくれた」と感謝。
新学期。ラケットは楕円球に持ち変えただろうか。徳島・城東高校新2年の齋藤壮馬のことだ。
年度の変わり目、埼玉・熊谷ラグビー場での全国高校選抜ラグビー大会に出場していた。普段はテニス部に在籍するが、人手が足りなかったラグビー部に駆り出されたのだ。
登録した17名中3名が助っ人部員だった城東はなんと、大会の予選プールBで2勝を挙げる。3月30日の初戦では留学生のいる札幌山の手高校を28-22で、4月2日の最終戦では慶應義塾高校を21-15で制したのだ。齋藤も、他クラブのメンバーのうち唯一スターターとして奮闘した。全てを終えると、本人は受け入れてくれた14名に感謝した。
「ほとんどルールもわからんなかで不安もあったんですけど、もともと仲のいい子も何人かいて、温かく迎えてくれて、わからんことは教えてくれた。助っ人だからと特別扱いするのではなく、チームメイトみたいに接してくれたのがよかった」
チームに試合をするメンバーが足らなくなったのは、昨年度の全国高校ラグビー大会で敗退してから。当時の3年生が抜けたのと同時に、部員数は14名となった。選手の自主性を重んじる伊達圭太監督は会話を通し、残ったメンバーに「どうする、大会」「勧誘しておいで」と告げる。結局、正規の部員は入れられなかったが、サッカー部とテニス部から計2名の選手を借りることに成功。県や四国大会の新人戦には16人で出場した。
選抜大会の出場が決まると、「全国大会に16名で出るのは不安だ」とテニス部からもうひとりのメンバーを募った。ここで手を挙げたのが齋藤だった。中学時代はソフトテニス部員でコンタクトスポーツは未経験も、長年チームに携わる稲垣宗員トレーナーいわく「ひょっとしたら、(正規の)部員を合わせても運動神経がいい方かもしれない」。何より伊達監督によれば「熱い気持ちを持っている子」だった。
野球部主将の兄も一時加入したというラグビー部へは大会2週間前に入部し、間もなくWTBの「レギュラー」に昇格。本番を1週間後に控えてからは、テニス部を休んでラグビーに専念した。かくして、全国大会で初の公式戦を経験した。
「本格的な試合はほんまに初めてでした。周りもわからんことはフォローしてくれ、ポジショニングも教えてくれた」
指揮官が認める「熱い気持ち」が現れたのは、3月31日だった。
チームはこの日、優勝経験のある東福岡高校に12-97で大敗。札幌山の手に勝利後、伊達監督は助っ人を試合に出していることを口外しないようにしていたが、この手の情報は自ずと関係者に広まる。何より東福岡の持ち味は、効果的にスペースを破る判断力とスキルだった。齋藤は、自分のサイドに何度も数的優位を作られた。申し訳なく思った。
「もっと自分ができたら、他の選手に負担がかからなかった」
やられっぱなしでは、終わらなかった。点差がついてから、調子をつかんだ齋藤は相手に追いすがってタックルを決める。さらに宿へ帰ると、先んじてチームが保有するタブレットに手を伸ばした。自分のプレーを見返し、同級生に質問を投げかけたのだ。なんとかしたかった。
伊達監督が目を細めたそのシーンについて、当事者はこう振り返った。
「力になりたい。そういう気持ちにさせてくれる雰囲気だった。ご飯の時も、ラグビー部なのでたくさん食べるんですけど、そこで皆は『お前はラグビー部じゃないから(食べなくて)いいよ』とはならなかった。いろんな所で、(正規の部員と)同じように接してくれたんです」
慶應戦後は記者に捕まり、「初めてのラグビー」について話す。周りのメンバーに「正式入部か?」とはやしたてられるなか、「ここは自分だけの問題ではなく、テニス部との話し合いとかにはなると思うんですけど」としながら「楽しい気持ちが強くて、ほんまに60分(試合時間)が短かった」。齋藤がテニスを続けるのだとしても、城東高校が未経験者にラグビーのおもしろさを伝えたのは史実として残る。