2019年の「必死のパッチ」。天理、埼玉での奈良対決で残した爪痕。
21-22。やはり、このカードは僅差で終わった。敗れた松隈孝照監督は言う。
「ルーズ(ボールの奪い合い)とか、簡単なエラーでスパンと(トライを)取られる(かどうか)……。そういう細かいところで勝敗が分かれる」
4月6日、埼玉・熊谷ラグビー場。全国高校選抜大会の準決勝に2年連続で臨んだ。相手は同じ奈良県の御所実だった。
両者は20年以上にわたり、全国高校大会の県予選決勝で激突。そのほとんどの試合で、クロスゲームを演じてきている。前年度3シーズンぶりにこの戦いを制した天理は、63回目の出場となった全国大会で8強入り。一方で敗れた御所実も、2008、12、14年度に全国準優勝を成し遂げている。今回は、ローカルなのにハイレベルな争いを県外で披露した格好だ。
プレーごとに選手の立ち位置を入れ替えることから「変幻自在」とも言われる天理の松隈監督は、戦前に「どことやるのも嬉しいですが、御所実とやるのも嬉しいです。うちにとって御所実は、避けて通れないので」と話していた。
指揮官の言葉通り、この日は細部に泣いた。
天理は複数名によるゲインラインへの仕掛けや自陣ゴール前での鋭い防御といった強みを発揮し、後半8分までに21-10とリードする。
しかしそれまでの失点は、ラインアウトのエラーを拾われた形、攻める途中の反則を起点にモールで押し込まれたパターンだった。終盤に自陣からパスを回され21-22と勝ち越されてからは、組織的な攻撃でゴールラインを割りそうなところで相手のカバーに阻まれた。
ラストワンプレー。「乗り越えなあかん!」。タッチラインの外から松隈監督が声を張るなか、天理は鋭く刺さる。スローに攻める御所実のミスを誘う。直後のスクラムでペナルティキックを獲得し、かさにかかって攻める。
敵陣深い位置で、得意のゲインラインへのパスを繰り出す。ノックオン。ノーサイド。紙一重の勝負を惜しくも落とし、フィフティーンはうなだれた。松隈監督は、今度の経験値の積み上げを前向きに捉えながらもこう悔やんでいた。
「相手の土俵で戦ったらだめですよね。反則したら、相手の土俵になる」
登録上はアウトサイドCTBとなっている蔦新之助がHOのようにラインアウトの投入役を務めたり、右PRの中山律希が本来組むはずのスクラムに入らず攻撃ラインでパスをもらったり。小柄な選手の多い天理は、頻繁にポジションチェンジをおこなう。取材陣に意図を問われた指揮官は、素直な気持ちをユーモアにくるんで伝える。
「変幻自在じゃなくて、困っているからいろんなことをやっているだけです。うちはやりくりしないと、無理なんですよ。身体を当てられる奴を15人並べないと試合にならないので、たまたまその結果……ということです。毎年、一緒ですよ。ずーっとこれをしています」
サイズでの劣勢をスキルと運動量と創意工夫で覆す天理の戦いぶりには、世界に対峙した際の日本代表の理想像を想起する関係者も多い。もっとも松隈監督は「そんな大したもんじゃないですよ」と話し、「子どもらが(当日に)力を発揮できるかどうかが大事」と繰り返す。
「『今年は人数が揃っているから強い!』とか、思ったことないです。今年はたまたま勝ち進んでいますけど、感覚は去年、一昨年と変わらないです。1年間努力して、なんとか勝てるように必死のパッチでやっているだけなんで」