【ラグリパWest】 現役、顧問、OBの熱意で新人戦15人制に復活。大阪府立住吉高校
農端幸二はうれしそうだった。
「スミコーが復活してきました」
スミコー=住吉高校。
大阪府の新人戦を15人制で戦う。
農端は淀川工科監督。大阪市の南に隣接する堺の出身だ。大和川いっぽんを越えたところにある同じ府立に近しい思いを抱く。
住吉は選手19人(2年生=11、1年生=8)が残った。女子マネは2人いる。
4ブロックに分かれる新人戦には棄権の2校をのぞき、30チームが参加した。
単独出場の公立は7校。農端の率いる淀川工科、摂津、天王寺、日新、布施工科、高津、そして住吉である。
住吉が近畿大会予選を兼ねる新人戦を15人で戦ったのは、『住吉高校ラグビー部50周年誌』やOBらの話を総合すれば、2003年が最後となる。以来15年以上を合同チームや10人制で過ごしてきた。
その間、部を下支えしてきたのはOB会だ。25年ほど前に組織された。現役の人数が落ち込み始めた時期だ。
週末の練習参加が主だった活動は現在、多方面に広がる。
3月には、初登校日にやってくる新入生に、OB自らが校門に立ち、勧誘ビラを挟んだ特製ファイルを配る。
1学年280人。その中で男子は100人ほど。各クラブの争奪戦は激しい。
6月にはOB会主催の新人歓迎会がある。部員たちに焼き肉をごちそうする。
練習後に飲む日々のプロテイン、公式戦ジャージーなども提供する。
不要になったバーベルなどの器具をもらい受け、ウエイトトレーニングに役立てる。
セーフティー・アシスタントの資格を持つ者が試合に帯同する。
OB自らが汗を流し、独善的にならず、現役のための実際的な援助を続ける。
約700人のOB会の中心にいるのは会長の樋口達哉である。以前、堺ラグビースクールで副校長を任された実務家肌の52歳だ。
「自分でもなんでここまでやるのかよくわかりません。まあ、この高校が好きなんでしょうね。人生で一番楽しい時間でした。自由でした。今は標準服がありますが、当時は制服もなく、パーマもあて放題でした」
樋口は保険代理店を経営している。比較的作りやすい時間を使って、後輩たちに自分たちと同じ至福を感じてほしいと願う。
住吉の創立は1922年(大正11)。学校の精神に「自由と自主自律」を掲げる。
前身は旧制の第十五中。市南部における最高の住宅地である帝塚山地域に含まれる。
元経済企画庁長官で小説家などの肩書を持つ堺屋太一は卒業生であり、ノーベル化学賞を得た下村脩(おさむ)も在籍した。
現在は語学に特化した国際文化科と理系の総合科学科の2科構成だ。受験生からの人気、偏差値ともに高い。
ラグビー部の創部は1962年(昭和37)。
今年で58年目を迎える。1期生は松井誠司(旧姓宝田)。慶應蹴球部のOB会・黒黄(こっこう)会の前会長だ。
チームは80年代に黄金期を迎える。
全国大会出場こそないものの、新人戦の準優勝は3回(1979、1984、1989年)。春季大会は1979年に優勝、翌1980年は準優勝している。この時代、監督だったのはトップレフェリーでもあった井上哲夫だった。
主な選手は宝田雄大。早稲田大でFBとして公式戦出場する。松井の甥であり、ヤマハ発動機前監督の清宮克幸の一学年上である。現在はスポーツ科学部教授をつとめる。
CTBだった高田広は筑波大から日本IBMで活躍した。大学では日本代表の強化委員長・薫田真広の一学年下になる。
その学校に昨年4月、松本雅由が赴任した。55歳の保健・体育教員である。
松本は府立河南から早稲田大に進んだ。宝田の2学年先輩のSHだ。
この代はHO西谷光宏主将の元、第23回大学選手権(1986年度)で大東文化大に10-12と惜敗したものの準優勝する。
天王寺出身の長男・悠汰も3年生CTB。親子でアカクロの系譜に連なっている。
松本は早稲田大で「しぼり」と呼ばれる下級生練習をやった。1日5時間以上走らされるのはザラだった。それでも、住吉では経験のみの指導はせず、部員たちに合わせる。「自由」を尊重する。
「この子たちは自分たちでやらせた方が機嫌がええ。伸びしろも見えるからね」
OB会との関係は良好だ。
「15人そろっているのはOBのお蔭。僕は平日がんばるんで、土日はどうぞ、やね」
松本は表情を緩める。
「先生に来てもらえて安心しています。毎日の指導ももちろんですが、事故や熱中症の心配もしなくてよくなります」
樋口には感謝がある。
主将の青木拓人は笑顔を浮かべた。
「OBは練習相手にもなってくれますし、用具の寄付やプロテインも買ってくれます。そこに、先生がきてくれてチームが締まりました。アドバイスもしてもらえます」
大阪中央ラグビースクール、相生中と競技経験豊富なCTBは心地よさを感じている。
住吉の新人戦初戦は不戦勝となった。
対戦が決まっていた同じ府立の千里が、部員の減少で棄権したためだ。
次戦は大阪桐蔭。1月7日、初の花園制覇を成し遂げたチームだ。
いきなりの全国トップとの対戦だが、青木には期待感がある。
「公立が大阪桐蔭と試合できる機会はまずありません。だからワクワクしています。むちゃくちゃ点数を取られるだろうけど、100-5とか100-3のスコアを目指します。なんとしても1点は取りたいです」
現役、顧問、OBが「三位一体」となる住吉。その効果を確かめる一戦は、1月27日(日)、12時20分、同志社香里のグラウンドでキックオフされる。