コラム 2018.02.02

【成見宏樹 コラム】 花園の背中。受け入れる力。(1)

【成見宏樹 コラム】 花園の背中。受け入れる力。(1)
花園2回戦・土佐塾12-12郡山北工。抽選に向かう両主将(12月30日/写真:BBM)
■「手を使う・使わない問題」よりもラグビーの大切な何か
――えー諸君。これからこのスポーツを、みなが楽しめるものにしたいので、ルールを統一しようと思う。ついてはまず、スネを蹴るのは反則としたい
「えー反対」
「蹴ってもいいじゃん、別に。いやむしろ、そういうのがいいんだからさ」
――どうしてもそこにこだわるのであれば、貴殿らはどうぞお好きに。我らはみなでこの統一ルールをもって、協会を作り、広く普及に勤しむので悪しからず
「やるし」
「うちらはラグビー校的ルールで続けるんで。御機嫌よう!」
 1863年。フットボールという、まだルールにばらつきのあったスポーツから、のちに圧倒的多数派となるサッカーが制度化され(FA創立)、ラグビーが残ったときのやりとりを想像するとそんな光景が浮かんできて楽しい。ハッキングと呼ばれたスネを蹴る行為は、当時、ラグビーにとって核心の部分だったらしい。「手を使う・使わない問題」よりもラグビーの大切な何か。
 安全を重視して「スネはダメよ」ルールを作った協会派の人たちは正しい。だけどラグビー派の人たちは、「それ、なんか違う」と感じた。
 今の世ではもちろんどんなスポーツでも、「スネはダメ」だ。絶対ダメ。ただ、「なんか違う」とラグビーの若者たちが感じたのは、スネを蹴ること自体ではなくて、そこに象徴される大らかさが、解放的な空気が、自分たちの放課後や週末から削られる窮屈さだったのではないか。
 
 高々と空に上がったボールをキャッチすると、ゴールと自分の間は敵だらけ。それでも、背後にいる味方を感じながら、突き進む。いくらでも走れ! ぶつかりたい奴はぶつかれ!(痛いけど)
 
 その大らかさが、いろんな種類の人を引きつけて、虜にして、みんな仲間になっていったのではないか。
 
 2017年末の東大阪、花園ラグビー場。
 
 154年前の先輩たちにまた感謝する場面をたくさん目にした。
 第97回全国高校大会に出場した選手たちは、多くの規則に、シンビンなど罰まである決まりの中でプレーしている。それでもラグビーは自由で、フィールドには本当にいろんな違った人がいた。違う者同士が1つのボールを追って、体を当て、泣いたり笑い合ったりして仲間になっていた。
 12月27日の開会式。
 もう入場行進が始まろうかという時に、鳥取県代表・倉吉東高校の岩野先生は、スタンド裏のあたりを行き来していた。日程表を見ると、開会式後、12時ちょうどの最初の試合で強豪・流経大柏との対戦を控えている。第1グラウンド裏のウォームアップ場を、念のためもう一度、チェックに来たところだった。
 立ち話で、倉吉東の厳しい授業、限られた練習時間と、そのやりくりについて話してくださった。3年生は秋以降、平日は1日しか練習できないこと、メニューは10分サイクルで行うこと、手合わせをしてくれる重量チームを求めて大人のクラブチームに胸を借りてきたこと。「流経(対戦相手)はFW、強いですからね。それでは!」。部員数はマネージャー含め23人、6年ぶりの出場。関東トップクラスの強豪との対戦を前に、足早に去っていく先生はどこか楽しそうに見えた。先生自身は他校で3回、花園でチームを率いているが、倉吉東ではこれが初めてだった。生徒たちと重ねてきたチャレンジを、きょうここでついにぶつけるんだ。そんな高揚が伝わってきた。
 
 12月30日、2回戦。
 第2グラウンド第2試合では抽選で3回戦進出校が決まった。
 土佐塾高校が郡山北工高校の猛追を受ける。ともに3回戦進出の経験はない両校。機敏なランで12-0とリードした土佐塾は、前半30分と後半インジャリータイムに、相手巨漢FWの突進にトライを許し12-12。トライ数、ゴール数とも同数のため、抽選に。郡山北工が3回戦進出を決めた。
 
 抽選直前、「くじ」を引く会場に向かう両チームの主将の、肩を並べて歩く姿が印象的だった。後ろから少し距離をおいて大勢の記者たち。FW同士だが、身長で6?、体重では10?ほど違う二人の背中に近づけない。部や学校や県のいろんなものを背負いつつ、笑顔も交えながら、互いに気遣って歩みを揃える様子が、いじらしいような、ありがたいような。
 
 1月1日は3回戦。
 花園初勝利に次いで2回戦も突破した郡山北工業は、優勝候補筆頭の東福岡と対戦、101-5で敗退した。郡山北工の「5」がスコアされたのはインジャリータイムだったと後で知った。3度目の出場で正月の経験、東福岡との対戦は、チームと県のこの先に生きる財産になる。
 1月8日の決勝後に東京に戻り、大会中の写真を端から確認していて、東福岡101-5郡山北工の、ある場面にはっとさせられた。
 ラグビーの試合写真にありそうでなかった場面。不思議としっくりくる、高校生たちの背中の光景だった。(全2回の2に続く)
【筆者プロフィール】
成見宏樹(なるみ・ひろき)
1972年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業後、1995年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務、週刊サッカーマガジン編集部勤務、ラグビーマガジン編集部勤務(8年ぶり2回目)、ソフトテニスマガジン編集長を経て、2017年からラグビーマガジン編集部(4年ぶり3回目、編集次長)

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