国内
2018.01.06
ゆとりの新人。厚くなった2枚目。証言で見る明大決勝進出への道。
ルーキーは落ち着いていた。
1月2日、東京・秩父宮ラグビー場での大学選手権準決勝。箸本龍雅が、19季ぶりのファイナル進出を目指す明大のLOとして先発する。スクラムで気圧されるなどして7−14とリードされるも、心にゆとりを持っていた。
昨年は東福岡高の主将として全国制覇を果たした新人は、43−21での勝利後に語る。
「昨日から、試合に向けていろんなイメージをしてきた。ディフェンスでくぎ付けにされる場面でも、気持ちに余裕を持って、いつか明大に流れが来ると思っていました」
思いがプレーに現れたようなシーンは、前半21分ごろにあった。
大東大のSOである大矢雄太がキックの蹴り合いから一転、ハーフ線付近左でランを仕掛ける。さらに左のSHの南昂伸へパスを渡す。
南はタッチライン際のスペースを駆け上がり、防御の裏へ短いキックを放つ。
「自分の持ち味はランなので、ちょっとでもゲインできるように。キックをして、プレッシャーをかけていこうかと思いました」
敵陣22メートルエリアに転がし、再獲得を目指した。
ところがそのコースへ、身長188センチ、体重111キロと大柄な箸本が滑り込んでいたのだ。
「FWの選手がセービングしたのには、びっくりしました」
南がこう天を仰ぐ一方、箸本は淡々と話した。
「内側(のコース)を抑えていたら、裏へ蹴られて。あそこで取られたら悪い流れになるなと思って、戻りました。しっかり(蹴られた際の心の)準備をしていた。うまく(懐へ)ボールが入って、よかったです」
後半に入ると、明大が次第に主導権を握る。序盤こそ攻撃時のブレイクダウン(ボール争奪局面)でランナーが相手防御に絡まれたが、ハーフタイム明けからはその後方に入るサポートが密になった。攻撃が連なるようになった。箸本の述懐。
「主将の古川満さん、副将の梶村祐介さんたちが『2人目の寄りを意識しよう』とチームトークで話して、チーム全体に伝達。そこで意識が上がってきた部分もあるのかな、と思います」
その古川によれば、「後半は大東大さんの足が止まっていたことで、前半に比べてボールキャリー(明大のランナー)が前に出られていた。ブレイクダウン(接点)自体の難易度が低くなったと感じて…」。その延長線上で、大外の身軽なフィニッシャーが相手と間合いを取って走った。
敵陣中盤10メートルエリアを重ねていた後半12分には、HOの武井日向が倒れながらもほふく前進するシーンを2度、作る。その場では味方サポートがボールを保護。迫りくる大東大の防御をけん制する。中盤あたりまで進む。
間もなく、左へフェイズを重ねる。端のスペースで待ち構えていたWTBの山村知也が、スピードに乗って追っ手をかわす。インゴールへ飛び込む。直後のゴール成功もあり、14−14と同点に追いついた。
以後はエリアマネジメントでも優位に立ち19、21分のスコアで22−14と突き放す。
対する大東大のNO8のアマト・ファカタヴァは「明大のブレイクダウンはうまい。(国内最高峰の)トップリーグみたいに速いラックだった」と、同じくFLの湯川純平は「負けているとは思わなかったのですけど、一度受けてしまうと相手も強いので押されてしまう。それで向こうの流れになられると…」とうなだれた。
31分に自身2トライ目をマークした山村は、こう振り返るのだった。
「ずっとやることは一緒だったのですが、後半はボールキープ率が高かった。こちらのフィットネス(持久力)が勝って、うまくボール運びができた。それで(自分を)活かしてもらえたと思います」
今季から、元サントリーチームディレクターの田中澄憲ヘッドコーチが入閣。グラウンド外での規律、グラウンド内での課題修正力アップを促してきた。その延長線上に、今度の80分間があった。
かたや大東大は、選手層という問題に直面したか。明大が8名のリザーブメンバーを全て投入したのに対し、大東大が起用した控え選手は2名。なかでも前半36分にHOの小泉友一郎が入った理由は、スクラムとランでチームを引っ張る平田快笙が故障離脱したためだった。
加盟する関東大学リーグ戦1部では相手に与えるトライを常に2本以内に抑えていたのに、この日は自慢の堅守が崩された。前半8分に先制トライも終盤になると落球を重ねたNO8のアマトは「大東は、最初は強かったけど…。皆、疲れていました」と肩を落とす。
明大は7日、秩父宮での決勝戦で8連覇中の帝京大と激突する。箸本は前半のブレイクダウンで攻めを遮断されたことを「そこを意識してチャンスをつかまないと、苦しくなる」と反省。持てるスキルを80分間、出し切りたいとする。大一番で冷静さを保つ。
(文:向 風見也)