国内 2017.08.30

恐竜とラグビーと仲間と。大阪朝高→茨城大、安翔大の青春。

恐竜とラグビーと仲間と。大阪朝高→茨城大、安翔大の青春。
写真右が安翔大。LO/FLで活躍する。(撮影/松本かおり)
 大規模な国際大会の魅力のひとつは、開催地域の多くの人たちを巻き込んで運営がおこなわれることだ。ボランティアの人たちも大勢参加し、そこには各分野のスペシャリストがいる。8月24日から28日まで茨城で開催された第25回 日・韓・中ジュニア交流競技会もそうだった。
 水戸で開催されたラグビー競技。韓国、中国両チームにも地元から通訳が派遣された。運営サイドやレフリーとの間に入り、コミュニケーションが円滑にとれるように韓国チームに帯同したのは、茨城大学に学ぶ安翔大(あん・さんで)だった。ラグビーと恐竜を愛している若者だ。
 茨城大学ラクビー部の2年生。理学部理学科地球環境科学コースに学ぶ。
 大阪朝鮮高級学校ラグビー部出身でFL、LOとして活躍した。3年時は大阪桐蔭に花園予選決勝で敗れるも、2年時はウォーターボーイとして全国大会の芝を踏み、1年時は全国ベスト8入りを果たした先輩たちをスタンドで応援した。強豪の空気を知る男だ。
 今回の交流競技会で大役を任された感想をこう話す。
「自分のアイデンティティを活かせて楽しかった」
 ラグビーの面でも刺激を受けた。
「(U17日本代表などの)洗練されたプレーを見て学ぶこともあったし、規律の高さに、自分が以前やっていたことを思い出したりもしました」
 安は理学部で古生物について学びたくて、その分野の著名教授がいる茨城大にやって来た。
「(自分の好きな)恐竜が、どうしてああいう姿になったのか、なぜあのような生活をしていたのか知りたいんです」
 子どもの頃は単純に凄い、かっこいいと思っていた感情が、やがて「あんな姿になったのは、どんな生き方をしたからなんだろう」という興味に変わり、現在に至る。ロマンを感じるのだ。
 学年が上がると専門的な勉強も増えて楽しくなってきた。地層を調べ、当時の環境、恐竜の生態を予想する。今回の任務を終えれば、幕張メッセでおこなわれている恐竜博にも行きたいし、恐竜県・福井の博物館での発掘アルバイトも控えていると笑う。
 ちなみに、メジャーなティラノサウルスより、少し小柄なアロサウルスが好きだ。
「突起が特徴的でスピードがある」
 ラグビーをやるならFL向きなのだそうだ。
 好きなことを好きなだけ学べる現在の環境が気に入っている安。しかし、ラグビーへの情熱も忘れていない。
 入学した頃は高校時代とは違う部の雰囲気に戸惑った。周囲のラグビーへの取り組みが甘く見えた。でも、先輩たちも自分と同じようにやりたいことが別にあるうえでラグビーを愛し、活動してていること、アルバイトにも励まなければ生活できないことなど、それぞれの背景が理解できてくると、周囲との距離はぐっと近づいた。
 部の最大の目標は全国地区対抗大学大会への出場だ。昨年は関東2区の予選決勝で新潟大に敗れた。
「だから今年は、まず、リベンジできるところまでいきたい」
 1947年の創部以来まだ果たしていない夢は、その先にあると思っている。
 今年の部員は18人。現在怪我人がいるため試合に出られる人数はギリギリの状態だが、10月から始まる予選に向けてコンディションを整えている最中だ。
「新潟大と戦うまでに対戦する相手ともしっかり戦っていかないといけないと思っています」
 これまでアルバイトは塾の講師をしていたが、それをフィットネスクラブでのプール監視員に変えた。勤務時間外にジムを使い、トレーニングに励むことができるからだ。
 兄・翔宇(さんう)さんも北海道大学の大学院で自分と同様の研究を続けている。安も将来は大学院に進学し、好きなことをもっともっと追求したい希望を持つ。
「そこにもまた、ラグビーを続けられる環境があればいいですね」
 東大阪朝鮮中級学校から楕円球を追い続けている若者は、ラグビーといい距離感を保ちながら人生を楽しんでいる。

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