コラム 2017.06.12

敗戦を秋の糧に 近畿大対東海大定期戦

敗戦を秋の糧に 近畿大対東海大定期戦
東海大ゴール前でモールを押し込む近畿大
 近畿大は6月11日、東海大に19−31(前半12−19)で敗れた。
 定期戦を兼ねた一戦は近畿大の東大阪キャンパスであった。ホームで勇姿を見せられず、4年生FLの田中伸弥はうめいた。
「ブレイクダウンが強かった。それが関東との違いです。ブレイクダウンです」
 田中は174センチと大柄とは言えないながら、関西でも屈指のボールハンター。東海大の際立った部分を問われ、タックル成立直後のボール争奪の部分を2度指摘する。
 そこは近畿大の自信分野でもあった。
 東海大監督の木村季由(ひでゆき)は淡々と答える。
「ウチは体を張らないやつは使わない。どんなにうまくてもです。それがスタンダード。そこだけはぶれません」
 0−7の前半14分、実に11フェイズにおいてボールをキープされ、最後はFL藤山裕太朗にインゴールを陥れられた。
 同38分には、NO8河野大地、日本代表CTBでもある鹿尾貫太のタテ突破を軸に、キックオフからノーホイッスルトライを決められる。
 激しいフィジカルをベースに、連続でも、一瞬でも5点を切り取られる。大学選手権2大会連続準優勝の力を見せつけられる。
 近畿大は、学生トップレベルのSOで、主将でもある喜連航平を右薬指の脱臼で欠く。しかし、東海大にも同じような不利はある。3人いる日本代表の内、鹿尾を除く2人が欠場。10日のルーマニア戦に出場した野口竜司はチームに帯同中だ。PR三浦昌悟は「疲れがあるので休ませた」と木村は明かした。
 ともにベストメンバーでなかったが、東海大には層の厚さもある。
 2017年の春シーズン、近畿大はここまで順調だった。
 春季大会を含むオープン戦5試合は4勝1分と負けなし。6月4日の春季大会準決勝は昨年関西を制した天理大と35−35で引き分けた。抽選の結果、決勝に進出する。天理大は教育実習中の4年生や外国人留学生が出場しなかったが、叩き合いで負けなかったことは目を引いた。
 近畿大の得点力アップはシステム変更がもたらした。あらかじめ定められたゾーン内を動くポッド系から、全員でボールを追いかけるシェイプ系に移行する。
 4年目に入ったヘッドコーチの松井祥寛(よしひろ)は話す。
「シーズンを終えて、数字を見た時にウチはアタックの力がない、と実感しました」
 近畿大は昨年関西リーグ4位。1試合の平均得点は23。一方で優勝した天理大は54点と実に倍以上の開きがあった。
「動いて、勝負していけば相手のディフェンスラインも下げられ、逆にウチの前に出る意識も出てくると考えました」
 近畿大の攻撃力は高い。喜連以外にも関西学生代表にCTB中田翔太、FB山田聖也を送り込んでいる。WTB岩佐賢人も力強い。その選手たちの特性を生かすためにも、松井は新しい「決め事」に舵を切った。
「はめこんでも予想外のプレーは生まれてきません。これまでゲームの中でのポイントは拠点作りになってしまっていた。そうするとチームに勢いがつかないのです」
 システムは一長一短だ。ポッドは教えやすいが、その分相手は読みやすい。シェイプは個人の状況判断が多く教えにくいが、相手の予測はつきにくい。どちらが正しいかではなく、チームの好みの問題だ。
 この日、獲得3トライ中、2つをスコアしたWTB川井太貴は歓迎する。
「やっていて楽しいです。去年、僕らは外で待っているだけでしたが、今はこちらからどんどんボールを呼び込めます」
 前半10分の先制トライは言葉通りだった。キックカウンターでできたラックに、川井は逆サイドから参加する。SH下村怜央が持ち出して、相手ディフェンダーを引き付けたところでラストパスをもらった。
 チームの変化とともに、今年40歳になる松井も日焼けして精悍になる。食事制限や走り込みで約10キロの減量。神戸製鋼の現役時代、体幹の強いNO8として、丸みを帯びていた面影は昔のものになる。
「今年のチームスローガンは『HUNGRY』なんです。だから自分もそうしようと…」
 笑う指揮官からは真剣さがにじむ。
 近畿大の創部は1949年(昭和24)。今年69年目を迎える。関西リーグの最高位は1997年の2位。優勝はない。
 昨年は4勝3敗の4位。3位になった京都産業大との直接対決に18−64と大敗して、大学選手権出場を逃した。
 大学選手権にはこれまで9回出場。直近は2012年度の第49回大会だ。最高位は第39回大会(2002年度)の8強だ。
 勝利に「飢える」チームは、東海大戦の黒星を学びにした上で、新しいシステムを練り上げたい。その先に見据えるのは関西リーグでの躍進であり、大学選手権において節目となる2桁回数の出場である。
(文:鎮 勝也)

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