国内 2017.02.05

秋葉俊和と甲斐尚哉。ふたりのプロップがスパイクを脱ぐ。NTTコム送別式。

秋葉俊和と甲斐尚哉。ふたりのプロップがスパイクを脱ぐ。NTTコム送別式。
山形中央高校時代はNO8。帝京大入学後PRになった秋葉俊和。
(撮影/松本かおり)
 同期でパシャッ。同窓でパシャッ。おーいフロントロー集まれ。で、またパシャッ。家族やファンとの撮影タイムもたくさんあった。おつかれさま。頑張ったね。いろんな言葉も飛んでいた。
 京葉線の二俣新町駅近く、千葉県市川市のホームグラウンドは日が降り注いで暖かかった。そこに集まった人たちの表情はニコニコだった。2月4日の午後。NTTコミュニケーションズシャイニングアークスが、2016年度を最後にチームを離れる選手、スタッフに対しての送別セレモニーを開いた。
 退団選手は5選手だった。PRの秋葉俊和と甲斐尚哉。FL小林訓也。SO川本祐輝。CTB佐藤晴紀。誰もがシャイニングアークスの歴史を支えてきた者たち。スパイクを脱ぎ、社業に専念する者もいれば、新天地に向かう者もいる。
 チームからジャージーと花束を渡され、これまでの功績を労われた。OBも加わってのタッチフットに興じる時間もあった。セレモニーの締めくくりに全員で写真に収まった後、冒頭のような人の輪ができた。いろんなグループの撮影タイムが続いた。
 その中に帝京大OBでの撮影やフロントローでのものがあった。その両方にいたのが秋葉と甲斐の両PRだ。秋葉は13年間このチームの最前列で押し、甲斐は7年間過ごした。
 チーム最古参だった35歳は「やり切った」と笑顔を見せ、171?と小柄な体躯で体を張ってきた29歳は「もう少しの期間、チームに貢献したい気持ちもありましたが」と言った。
 ふたりともこの先は、オフィスでの時間を長く過ごすことになる。
 1年目は、まだチーム名がNTT東日本でした。
 秋葉の回想だ。ホームグラウンドは東大和にあった。
「会社のラグビー部。まだまだ、そんな感じが強い時代でした」
 自身の入部後、チームは駆け足で階段を駆け上がっていった。何人もの監督の下でプレーした。それぞれの指揮官が、いろんなスタイルのラグビーを掲げた。どの時代も、それらに対応したから長い間ピッチに立つことができた。
「すべての指導者が積み上げたものが、このラグビー部の歴史になっていると思います。どのコーチも自分を導いてくれました。自分を信じ、チームを信じてやってきただけです」
 どの試合でも同じようにプレーしてきたけれど、2009年-2010年シーズンのトップチャレンジシリーズで1位となり、トップリーグ昇格を決めた試合のことは心に残っている。背番号1を背負っていた。
「ここは自分を育ててくれたところ。ラグビーは人とのつながりを作ってくれました」
 山形で小学校1年時から剣道をやっていたけれど、山形中央高校に入学後に「違うスポーツをやってみよう」と思い、入ったのがラグビー。幸せな出会いだった。

kai

高鍋高校出身の甲斐尚哉。「必要とされたら将来チームをサポートしたい」。
(撮影/松本かおり)
 小柄な甲斐は入社後、頭部への衝撃で苦しんできた。今シーズンも脳しんとうと診断されること3度。タックルに入った際、記憶が飛ぶことがあった。
 そんな症状にドクターから告げられた。「来季もプレーしようと思うなら他の選手とは違ったアプローチをしないといけないかも」という提案だった。
「あと1年か2年、チームに貢献したいなと思う気持ちも正直ありました。でも、自分は不安定。そういう状況なら、フルに準備できる選手に出てもらった方がいいなと思い、決断しました」
 トップリーグのレベルでは、自分より小さなトイメンも3番もほとんど見たことがない。そんな中で最前列で相手とやり合えたのは、スクラムの師匠と呼べる人との出会いがあったからだ。
「ノブジさん(PR斉藤展士/2015-2016年シーズンまで在籍)に教わってスクラムへの考え方が変わりました。ひとりで組み、勝とうとしてもダメだ、と。8人一体となる大切さを教わりました」
 そんな信念を胸に地道に練習し、苦しくても踏ん張り、同じポジションの師匠を追い越そうとガムシャラにやったからチームの力になれたと甲斐は思っている。
「5年目(2014年)の宮城(石巻)でのNEC戦が入社後、初めて先発した試合でした。脳しんとうなどに苦しんだ時期もあって、それを乗り越えて初めて3番をつけたのがその時でしたから印象に残っています」
 シャイニングアークスは2016-2017年シーズン、5位というクラブ史上最高の成績を残した。チームが進化を続ける理由を、「若手の元気。それがチームの力になっていると思います。彼らを年上の選手たちが受け入れる。そういった文化があるのが大きいですね」と話した。
 このチームがもっと輝けるようになるためには−−。そう問うと、「いいボールを出せれば、うちのBKは凄い。試合後、コーチ陣に今日のあのときの…とか言わせないように、すべてのスクラムをしっかり組んでほしい」と言った。
 甲斐尚哉は、最後の最後までプロップだった。

zen

チームを離れる5選手&スタッフとグラウンドに駆けつけた全員でパチリ。
(撮影/松本かおり)

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