コラム 2017.01.02

京産大の教えを。浮羽究真館・吉瀬晋監督、木本・喜田監督。

京産大の教えを。浮羽究真館・吉瀬晋監督、木本・喜田監督。
京都産業大学の教えを高校生に伝える福岡・浮羽究真館の
吉瀬晋太郎監督(左)と三重・木本の喜田裕彰監督
 今、大学ラグビーにおいて、京都産業大学はちょっとしたブームである。
 関西リーグ3位ながら、12月11日の大学選手権では明治大学を26-22で下し、準々決勝に進出した。スクラム、モールなどのお家芸が際立った。選手権での明治戦勝利は7回目にして初。監督の大西健やヘッドコーチの元木由紀雄の涙は映像などで全国に伝わる。
 ラグビーライティングの第一人者、藤島大は、「京産大という人間」を自身のコラム「Dai Heart」に執筆。発売中の『ラグビーマガジン2月号』に載る一文は反響を呼んだ。
 その京産大の教えをOBとして高校生に伝える監督が2人いる。福岡県立浮羽究真館の吉瀬(きちぜ)晋太郎と三重県立木本(きのもと)の喜田(きた)裕彰である。ともに保健・体育教員だ。
 吉瀬は31歳。浮羽(前校名)から法学部に入学。一般入試での入部は山下裕史(日本代表、神戸製鋼PR)ら同期25人の中で2人だった。オフも自主トレに励んだ結果、CTBとして3年から公式戦出場。2006年度の第43回選手権では4強進出に貢献する。
 喜田は34歳。木本から一浪して吉瀬と同じ一般入試で経済学部に入った。吉瀬の2学年上になる。1学年下には田中史朗(日本代表、パナソニックSH)がいる。HOとして3年から公式戦に出る。4年時には東西対抗にも出場。当時、早稲田大学FBだった五郎丸歩とも対戦している。
 吉瀬は藤島が書いた京産大名物の「猛練習」の内容を語る。
「一番きつかったのは朝練習です。例えば30キロのバーベルを頭に差し上げて曲げ伸ばしをするのですが、自分は当時体重が60キロくらいしかなかったので、上げた段階でもうしんどい。そこから大西先生の『いーち、にーい』というゆっくりした掛け声に合わせます。ものすごくきつかったですね」
 毎日ある京産大名物の朝練習は午前6時30分スタート。綱登りなど14種類のウエイトトレーニングを約1時間30分かけてこなす。1年生は器具のセッティングのため6時集合が義務付けられていた。
 喜田はスクラムで精魂尽き果てた。当時、3時間の8対8はザラにあった。
「途中から時空間が狂ってくるんです。今何時か、とか何本組んだか、が分からなくなる。スパイクが泡を吹くんです。夜中に体にけいれんが起きて寝られないことがありました」
 汗が泡沫状になり、靴の皮革を通して外ににじみ出る。そこまでの鍛錬があった。
 喜田の愛称は「コロコロ」を縮めた「コロ」。浪人太りで入部当時は90キロあり、先輩たちから「転がった方が早い」ということでつけられた。その体重はわずか2か月ほどで75キロまで落ちた。
 2人はその激烈なトレーニングを4年間こなした。卒業後には、京都教育大学などで体育の教員免許を取得。この4月から、それぞれの高校で指導3年目を迎える。高校生と向き合う日々に、上賀茂のグラウンドでの4年間は生きる。吉瀬は言う。
「規律ですね。僕らは遅刻したら、練習に入れなかった。立ってました。先生に謝って、次の日に頭を丸めて練習に参加しました」
 丸刈りは強制ではなく、大西も命じたことはない。学生の自発だった。吉瀬は同じように遅刻者には練習に参加させない。
「ラグビーは組織で動きます。だから規律を明確にしないといけない。プレーもうまくならないし、ケガにもつながります」
 吉瀬はラグビーの専門書のみならず、紀元前500年ごろに編まれた中国の兵法書『孫子』も読む。
「ここにも規律がある部隊は強い、と書かれています。今も本が残っているということは、勝負事においての規律は不変だと思うのです」
 喜田は、決めたことをやり遂げる大西の姿に一貫することの大切さを学ぶ。
「指導する中でブレたら生徒への影響力が弱まります。『これをやる』と決めたら、やり続ける。それが大変だ、というのは指導者になってからひしひしと感じます。フラフラしていればグラウンドの空気は変わりません」
 大西の監督就任から44年。今でも京産大は朝練習を続けている。
 紫紺を倒した母校の勝利は励みになる。吉瀬は同期の主将で、クボタHOの後藤満久から「LINE」をもらった。「奇跡」というコメントとともに大西が男泣きしているテレビの写真が添えられていた。
「勝ったのはうれしかったですね。自分たちもやらないと、という思いにさせられます」
 昨年の全国大会予選、浮羽究真館は2勝して3回戦で名門の筑紫丘に7−50で敗れた。木本は決勝に進出するも朝明に5−78と力の差を見せつけられた。
 2人は今年の目標を話す。
「3回戦に勝てばベスト16なので、そこまで行きたいです」
「8年ぶりに決勝に行けたんで、今年は全国大会出場を目指します」
 母校・京産大の教えを守り、後輩たちに勇気づけられる2人。まずはそれぞれのターゲットをクリアさせて行く。
(文:鎮 勝也)

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