国内
2016.12.28
頭を入れる「リトル・モセ」。ヤマハ松本力也がTL全勝対決で学んだこと。
国内最高峰のトップリーグで優勝を争うヤマハの清宮克幸監督が、記者団を前に「ぜひ、書いておいていただきたい」と名を挙げた選手がいる。
松本力哉。身長186センチ、体重105キロの26歳。4年目のNO8である。関西大学Bリーグの龍谷大出身で、今季、トップリーグデビューを果たしたばかり(10月15日・第7節/対ホンダ 〇47−25)。第11節からは3戦連続で出場中だ。
チャンスを得たきっかけのひとつは、日本代表経験者の堀江恭佑の故障だった。しかし、清宮監督いわく「素晴らしい。堀江の代役というのは失礼なくらい」とのことだ。松本の成長した点を聞かれ、指揮官は即答する。
「アタックでも、ディフェンスでも、頭を入れていける。FWにとって一番、大事です」
清宮監督の言う「頭を入れる」とは、密集戦で相手の懐へ突き刺さること。低い前傾姿勢を取り、地面のボールの上を乗り越える…。それは、ち密で激しい守備を披露するヤマハのFW陣にあって、習得しなくてはならない動作でもある。
松本自身が、その要諦をこう語る。
「(タックラーとして)相手を倒し、すぐに、(その地点を)越えていくイメージです。その時に(敵側に)頭を入れていく」
人呼んで「モセ・ジュニア」もしくは「リトル・モセ」。ヤマハの肉弾戦を引き締める、モセ・トゥイアリイにちなんでのあだ名だ。トゥイアリイは元ニュージーランド代表の35歳で、加入8年目。例の「頭を入れる」という動きなどで、しばし攻守逆転を決める。いわば、松本のお手本である。
一般論として、人がぶつかり合う局面で「頭を入れる」には勇気も必要だ。いま、トップリーグの舞台で躊躇なく突き刺される松本には、先天的に「頭を入れる」だけの資質があったのではないか。
本人の実感は、違った。
もともと苦手だったかもしれない「頭を入れる」を、成功体験の積み重ねで得意技にしていったのだという。
「前までは…というところもあったけど、そういう(身体を張る)部分で生きていかなきゃいけなかった。それに(頭を入れに)行くほど楽しくなった。しっかりとやれば皆に観てもらえるし、よかったよと言ってもらえる」
清宮監督も言う。
「身体ができる前に頭を入れにいくと、怪我をしたり脳震とうを起こしたりするんです。松本も身体ができ、体幹が強くなって、負けないようになった」
いつしか松本は、プレーと同時に風貌もトゥイアリイを真似るようになったか。「一昨年、ですかね…」。ある日、頭を丸めてみたら、こちらも常に坊主頭のトゥイアリイと瓜二つだった。清宮監督にこう言われたらしい。
「お前は、リトル・モセだ!」
いまではモセのルーティーンにならい、公式戦前はマイバリカンで頭を剃る。ホームゲームの際は前日で、県外開催試合の際は移動日を翌日に控えた2日前だ。
「モセもやっていたことを、真似して。モセは坊主歴が長くて自分でやっているのですが、僕はまだ難しいので…」
住んでいる選手寮で近くの仲間に頼み、地肌が見えるような仕上がりにする。
「最初はおもしろ半分でやっていたのですが、この儀式をやり始めてから不思議と調子が良くて…」
2016年12月24日、地元・静岡のヤマハスタジアム。トップリーグの第13節で、サントリーとの全勝対決に挑む。もちろん、儀式は前日に済ませた。
早速、自陣22メートル線上の接点でファイトする。「頭を入れる」。
たまらずサントリーが反則したことで、ヤマハは敵陣10メートル線上左でのラインアウトを獲得。SOの大田尾竜彦がハイパントを蹴り上げ、前進する。こぼれ球を拾ったCTBのヴィリアミ・タヒトゥアがパスをつなぎ、WTB伊東力が先制トライを決めた。前半4分だった。
すべてのきっかけとなった松本は、必死のプレーをこう述懐する。
「ブレイクダウン(接点)の攻防が勝負のキーだと思っていたので、そこは意識していました」
しかし、試合全般を振り返れば、「リズムを狂わされた」と漏らす。
ヤマハの攻撃の際は、要所の接点で球出しが遅れた。元オーストラリア代表FLのジョージ・スミスら、相手の熟練選手たちに絡まれたからだ。守っても、先制点につながったようなファイトを攻守逆転につなげられない。
24−41で屈したなか、松本はこんな教訓を得た。
「ヤマハがディフェンスの時は、真っ直ぐ勝負しにいけば…(勝算がある)と。ただ、そこで全体的に受けてしまった。ブレイクダウン(接点)でこちらが反則を犯してしまったりもしていた。…いい経験になりました。グラウンドに寝ているプレーヤーをなくすのがヤマハのディフェンスですが、後半は寝ている選手が多すぎた。もっと早く起きる。(レフリーや首脳陣に)言われる前にそれをできていれば」
チームは戦績を12勝1敗とし、勝点3差で首位サントリーを追う。残り2試合で逆転優勝を決める可能性も残っており、上位3チームは日本選手権に出場できる。
「悪いところばかりではない。スミス選手のようなプレーヤーを好きにさせないようにするのが、鍵。次以降の試合でも外国人選手がいるので、そういう選手をもっと(接点で)排除していきたい」
向こうの枢軸を、もっと厳しくチェックする。負けられない戦いが続くなか、「リトル・モセ」はさらなる向上のヒントを得た。
(文:向 風見也)