国内
2016.01.23
東芝の強力スクラムへ挑む! パナソニック、PR稲垣&HO堀江の思考とは。
準決勝で30針を縫った稲垣啓太だが、ファイナルは先発(撮影:松本かおり)
日本最高峰であるラグビートップリーグ(TL)のプレーオフ決勝戦が1月24日、東京は秩父宮ラグビー場でおこなわれる。3連覇を目指すパナソニックのHO堀江翔太主将は、東芝の強力なスクラムを警戒。最前列中央で組み合うにあたり、「いろいろと考えながら、やっていきたい」と決意を明かす。
12月12日、秩父宮。リーグ戦第5節の直接対決では17-17で引き分け。スクラムではやや相手の押し込みを食らう場面があった。もっともその背景には、パナソニック側のある事情があった。HO堀江主将が笑う。
「あの時は…。ガッキーが、セルフ(単独)で普段と違う組み方を試していてね」
昨季は南半球最高峰のレベルズ(オーストラリア)でプレーした「ガッキー」ことPR稲垣啓太は、今季のTLを世界で選択するプレーの「実験」の場としている向きがあった。
守備時には抜かれやすくなることを承知で、相手と間合いを詰める前に勢いよくタックルを放とうとしたり。最前列の左で組むスクラムでも、「あえて不利な状況になるよう」に組んでみたり。もちろんチームの勝利を最優先に考えてはいたが、国内レベルで通じていた各種スキルの仕様を再点検しているのだ。この先、海外で大柄な選手に対抗し続けるために。
「足の位置を変えたりとか、TLを通していろいろなことをやりました。詳しくは言えないですが、『こう組むと不利な状況になる』という形でも、状況によっては有利な状況に持っていけると気付けたり。いろいろ、学べました。今回は何かを試すのではなく、いままでのなかで得たもの(手応えをつかめた組み方)だけを使っていきたいです」
HO堀江主将は「そんなの、先に言えよ」とたしなめたが、昨秋のワールドカップ(W杯)イングランド大会を戦った日本代表同士とあって相棒の挑戦心へは一定の理解を示していよう。決勝戦に向け、PR稲垣はこう続ける。
「今回、冒険はしません。終わりです」
3季ぶりのファイナリストとなった東芝は、FW8人が一体となった強固なパックを持ち味とする。HO湯原祐希、左PR三上正貴はW杯の日本代表。PR浅原拓真も代表経験者だ。フロントロー3人の掛け合いがしばし対面の体勢を崩したり、後方からのプッシュを相手に伝えたりする。
特にHO湯原はW杯で出番こそなかったが、他のフロントローに何度もアドバイスを求められた。スクラムへの造詣の深さで、3勝を挙げたチームをサポートしていた。当時副将としてプール戦全4試合に先発したHO堀江主将も、2歳年上のライバルを「身体も強いし、経験もある。代表合宿の時に弱点を探したんですけど、わからなかった」と認めるほかない。
しかし、HO堀江主将は「とにかく勝ちたいという気持ちが強い」とも語る。国内シーズン終了後は、PR稲垣とともにサンウルブスへ合流する。スーパーラグビーに新参戦する日本拠点チームだ。2人ともフランスのプロクラブからオファーを受けながら、「日本ラグビーを盛り上げるために」と今度の決断を下している。自分たちの強さを結果で証明し、胸を張って新天地へ赴きたい。
かたやPR稲垣は、TLでの「実験」でこんなことを学んでいる。
「例えばバーナード・フォーリー(オーストラリア代表の正司令塔として活躍したリコーのSO)みたいな選手に突っ込んでいっても、やはり抜かれますよね。ドミネート(勢いをつけて相手を強く押し返す)タックルは状況によって使い分けた方がいい」
そして週末のスクラム合戦に向け、静かに燃えているのだった。
「湯原さんはいろんな引き出しを持っている。組みながら自分がどんな状況になっているかも冷静にわかって修正していける。ただ、自分は自分のやるべきことをやる。対面のPR浅原さんを制することで、HO湯原さんの選択権を失くしたい」
PR稲垣は、今回のファイナルを今季の国内シーズンで初めての「冒険しない」試合とする。優勝への意欲からだ。
(文:向 風見也)
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