国内 2026.07.18

九州大学ラグビークリニック with 伊都ヤングラガーズ。3年目で育まれた繋がりと循環

[ 李 鍾基 ]
九州大学ラグビークリニック with 伊都ヤングラガーズ。3年目で育まれた繋がりと循環
交流イベントの最後に行われた綱引き。子どもたちの「キューダイ!」という声援を受けながら綱を引く九州大学ラグビー部の学生たち。対戦相手は伊都ヤングラガーズのコーチ陣

「キューダイ! キューダイ! キューダイ!」

 グラウンドに、伊都ヤングラガーズの元気な声が響いた。

 ラグビークリニックの最後に行われた、九州大学ラグビー部とスクールコーチ陣による綱引き対決。子供たちが声援を送ったのは、毎日指導していくれるコーチたちではなく、1年に一度会う九大の部員たちだった。

 その光景は、このクリニックが3年間で育んできたものを物語っているように思えた。

 2026年7月12日(日)、九大伊都キャンパスで「第3回九州大学ラグビークリニック」が行われた。

 同クリニックは、ラグビー部の地域貢献活動の一環として2024年から始まった。

第一回九州大学ラグビークリニックの様子

 昨年からは、IRAP(アイラップ:ITO RUGBY ACTION PROJECT)と銘打って、伊都地区からラグビーの魅力を発信していくという取り組みも始まっている。

 伊都ヤングラガーズは、1974年創部の引津リトルラガーズ(小学生)と、2006年創部の伊都ヤングラガーズ(中学生)が2015年に一つとなって生まれたスクールだ。
 地域の中学校ラグビー部が廃部していく中でも、「糸島の子どもたちにラグビーを続けさせたい」というコーチや保護者たちの強い思いが、半世紀にわたって受け継がれてきた。団旗には引津時代から引き継いだ「H」の文字が描かれている。

 ラグビークリニックは、例年通り伊都ヤングラガーズを大学に招いて、大学生が指導することが主な内容だった。

 今年は福岡県久留米市を拠点に活動する女子ラグビーチーム「ナナイロプリズム福岡」(以下、ナナイロ)の選手3名が参加し、同じ福岡県内の学生たちと触れ合う機会となった。

 小中学生が各学年に分かれてクリニックが始まると、各パートで大学生たちが準備した練習メニューが進んでいく。ナナイロの3選手も、時折練習に参加しながら各学年を見て回った。

 青々とした人工芝のグラウンド、現役女子ラグビー選手たちとの触れ合い、大学生から教わる機会。それらすべてが子どもたちにとって新鮮なことだった。

 大学生にとってもクリニックを開催することは、普段とは一味違う実践の機会だった。

 練習メニューの計画立案、スクールのコーチたちとの事前打ち合わせもすべて大学生たちが準備してきた。

 今年は暑さ対策として、グラウンドすぐ隣に常時利用可能なエアコンが効いた休憩室も準備されていた。

 九大では毎年この時期に開催するラグビークリニック以外にも、普段から地元の高校生たちと合同練習を行うなど、地域交流に取り組んでいる。

「昨年に創部100周年を迎えて、OBたちからも沢山のサポートを受けています。今年からスポンサー募集を行う準備もしているのですが、目標に向かって全力でチャレンジすることと同時に、ラグビーを通じて社会貢献できることにも取り組んでいきたいです」

 101代目の主将を務める松浦宗源(SH/福岡高校)は、イベント開始前にそう語った。

開会式で挨拶をする九大の堀内恭彦監督(右)と、101代目主将の松浦宗源(中央)
開会式で挨拶をする伊都ヤングラガーズの吉丸秀利会長。スクールの創成期から伊都地域のジュニアラグビーを支えてきた。元日本ラグビー協会レフリー部門長
ナナイロプリズム福岡の選手たち。右から吉本芽以、伊礼門千紫、平田恋菜

 小学3年生のコンタクト練習では、大学生がスクールコーチから教わることがあった。普段からラグビーで使う「孤立」という言葉が、3年生には伝わっていなかった。

 大学生はすぐに別の言葉へと言い換えた。技術を教えるだけではない、相手に伝わる言葉を探すことも、この日、大学生が学んだことだった。

 小学1、2年生グループでは練習がひと段落するたびに、子どもたちは思い思いに大学生のもとへ駆け寄っていく。
 なかでも小川愛介(3年/LO)を数人の子どもたちが囲み、肩車をせがみながらじゃれ合っていた。

「実は毎年このイベントがすごく楽しみなんです」

 頬をつたう大粒の汗を拭いながらこう続けた。
「子どもたちと一緒にラグビーをすると、ラグビーを純粋に楽しむ気持ちを思い出させてくれるんです」

 普段は勝利を目指してラグビーに向き合う大学生は、この日、子どもたちとの時間の中でラグビーを楽しむという原点を思い出していた。

 普段は人前で話すのが得意ではないという山口幸介(3年/FL)。しかし、この日最後の交流会では大きな声で司会進行を務め、会場を盛り上げていた。

 山口自身も、伊都ヤングラガーズで育った一人だ。
「自分も育ててもらったスクールの子どもたちと接していると、何だか胸が熱くなってきました」

 6月の練習中に膝の靱帯を損傷し、来月には手術を控えている。
「まずはしっかり治して、来シーズンにしっかりと復帰したい。そして、今回のような活動を通して、九大のことをもっと多くの人に知ってもらえたらうれしいです」

 クリニックも無事終わり、ようやく一息ついた山口は穏やかな笑顔を浮かべながら話した。

伊都ヤングラガーズの小学生主将の松尾ゆうき(6年生/CTB)。「大学生から教わって楽しかったし、みんなパスがうまかった」
大学生からラックプレーを学ぶ小学3年生たち
小学1、2年生たちと九大ラグビー部の小川愛介

 伊都ヤングラガーズの中学生チームは3年生がすでに引退し、2年生の宮原樹(たつる)が主将を務める。

 クリニックが終わって話を聞くと、「普段は九大生と接する機会も滅多にないし、色んなことを教われて嬉しかった。こんな機会を作ってくれるコーチたちに感謝しています」と語った。

 冒頭の綱引き大会の途中、「キューダイ!」コールが起こる少し前に、急に小学生たちから「たつる! たつる!」と大きな声がグラウンドに響いた。

 父が小学3年生のコーチを務めており、自身も普段から練習に顔を出しては後輩たちを教えているという。だから自然と声を合わせて応援していたのだ。

 大学生がラグビースクールのコーチたちから教わる。
 子どもたちが大学生から教わる。
 小学生は中学生から教わる。
 そして、子どもたちの姿から大人も大学生も大切なことを学ぶ。

 ラグビークリニックが3年間で育んできたのは、単にラグビーの技術だけではなく、人との繋がりとこの地域での「学びの循環」だった。

 九大は9月から九州大学リーグAグループ昇格をかけた戦いに挑む。

 そのグラウンドに伊都ヤングラガーズの子どもたちの姿があるかは分からない。それでもこの日グラウンドに響いた 「キューダイ!」という声は、大学生たちの背中を押し続けるだろう。

 秋香るラグビーシーズンに向けて、それぞれの鍛錬の夏が始まる。

閉会式ではナナイロプリズムの選手たちから、各学年一人ずつ表彰され記念品が渡された
クリニック後に行われたユニット練習でジャンプする伊都ヤングラガーズ中学生主将の宮原樹(2年/LO)
最後は全員でIRAP(アイラップ)!の掛け声で記念撮影

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