盛況の「御所ラグビーフェスティバル」
7月21日、奈良県の御所市民運動公園にて「御所ラグビーフェスティバル2015」が始まった。例年、御所実業高校がホスト校となり、御所ファミリーとでも言うべき高校が全国から集うのだが、今年は、東海大仰星(大阪府)、大阪桐蔭、京都成章、東京、春日丘(愛知県)、石見智翠館(島根県)、長崎南山などの強豪校を含む32校が参加。7月27日の午前中まで、連日朝から晩まで20分の試合が次々に行われる。多くの選手に出場機会があり、普段はなかなか対戦できないチームとも戦える、貴重なフェスティバルだ。
21日は、朝8時45分から地元の御所中学と河合第二中学の試合があり、その後はオープニングセレモニー。御所市の東川裕市長、市会議員、教育長などが列席し、全国に「御所(ごせ)」の名を広めたラグビーの部の活躍を称え、人工芝グラウンドの完成を祝った。挨拶した御所実業高校ラグビー部の竹田寛行監督は、「公立高校として、地域一体型のモデルになれれば」と話し、行政と一体となって地元を活性化していくラグビー部の活動を今後も継続していく考えを語った。
人工芝グラウンド完成記念試合は、御所実業高校のAチームとOBドリームチームとの20分一本勝負。菊谷崇(キヤノンイーグルス)、東芝ブレイブルーパスのキャプテン森田佳寿をはじめとしたドリームチームが後輩たちに胸を貸した。レフリーは日本ラグビー協会レフリー委員会の岸川剛之委員長という豪華版。個人技でOBたちが軽くトライを重ねるかと思いきや、高校生の低く激しいタックルにトライが奪えず、逆に御所実業FB井上拓が個人技で一人二人とタックラーをかわして独走トライを決めるなど、現役が17-5でOBチームを破った。「強かったですよ。2人でタックルに来て、3人目も早いからオフロードパスもできない」と、菊谷選手は後輩たちを称賛。試合後は、ゲスト参加の金正奎(常翔啓光学園→早大→NTTコミュニケーションズ)らも加わって、ラグビークリニック、サイン会とOBたちもフル回転でフェスティバルを盛り上げていた。
今回は初めて前夜祭も行われた。20日、午後7時から御所市のアザレアホールで行われたトークショーは、菊谷、森田両選手はじめ、トップリーガーや社会人チームのOBが集って、毎日放送の赤木誠アナウンサーが司会進行。竹田寛行監督に加えて、筆者も参加し、1時間あまり、高校時代の思い出などを楽しく語り合った。会場は、父兄やOB、関係者など約200名が参加。現役部員を含めると約300名で超満員に膨れ上がった。
トークショーに参加したOB、ゲストは以下の通り。森功至(クボタ)、西村渉(NTTコミュニケーションズ)、竹田宜純(トヨタ自動車)、梶伊織(パナソニック)、小西大輔、川瀬幸輝(Honda)、岸和田玲央(サントリー、引退)、芝本裕吏、大庭侑馬、竹井勝彦(三菱重工相模原)。友情出演=新田浩一(東海大仰星→東海大→サントリー、引退)、金正奎(常翔啓光学園→早大→NTTコミュニケーションズ)。
まずは、竹田監督、菊谷選手、森田選手によるトーク。菊谷選手は中学時代に野球をしていて高校からラグビーを始めた。赤木アナに「その頃、竹田先生の姿は」と問われ、「今と同じですけど」と答えると、すかさず竹田監督から「(髪の毛)あったわ!」と突っ込みが入った(会場、爆笑)。2人とも「御所フェスティバルに鍛えられた」と語り、学校からグラウンドまで約6キロを走って往復し、多くのチームを招いて試合を運営、自分たちもプレーするハードな日々で心身ともに成長できたと語った。また、竹田監督は初心者の菊谷選手をLOで起用し、「ボールのほうへ走るな。逆に走って待っておけ」と、当時としては先進的な指示をしていたことも明かし、独特の指導法の一端を垣間見せてくれた。
「竹田先生が怖かった」とほとんどのOBたちが口をそろえる中で、「怖い印象はない」と言ったのは、竹井勝彦選手。「叱られそうになると、後ろに行って、褒められそうだと前に出ていました」。また、西村選手は、「怖かったけど、愛があるのは分かっていました」と優等生コメントで笑いをとっていた。ベストコメントは、西村選手が御所のラグビーを端的に表現したもの。「御所ラグビーとは、FWのラグビーです。試合はFWが決める。点を獲るのがBKです」。
トークのあとは、OBたちから提供されたジャージーなどのチャリティーオークション。現役選手から今年の抱負などが語られ、あっという間の2時間半。終了後は、近鉄ライナーズの吉井耕平選手も参加し、関係者の懇親会で御所ファミリーの交流を深めていた。
トークショーの前には、東川市長が、2019年のラグビーワールドカップ、2020年オリンピック・パラリンピック、2021年のワールドマスターズゲームズと、日本で開催されるビッグイベントにキャンプ地として立候補することも表明。スポーツを通じて地域を活性化する意気込みを語った。フェスティバルは27日まで、御所実業高校のグラウンドも併用して行われる。訪れた人々は、御所市における御所実業高校ラグビー部と、ラグビーというスポーツの抜群の存在感を知ることになるだろう。
菊谷崇選手、竹田寛行監督、村上晃一、赤木誠アナウンサー
【筆者プロフィール】
村上晃一(むらかみ・こういち) ラグビージャーナリスト。
京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に「ラグビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。BS朝日「ラグビーウィークリー」にもコメンテーターとして出演中。