国内 2025.05.26

底力が接点に現れた。ブレイブルーパス、粘るスティーラーズを振り切る。

[ 向 風見也 ]
底力が接点に現れた。ブレイブルーパス、粘るスティーラーズを振り切る。
タックルを受けながらボールをつなぐ佐々木剛[BL東京](撮影:福島宏治)

 不安になってもおかしくなかった。

 キックオフ早々のペナルティー禍で先制され、その後は敵陣22メートルエリアへ入っても、入ってもエラーやビデオ判定に伴うトライ取り消しに泣いた。

 国内リーグワン1部でレギュラーシーズン首位だった東芝ブレイブルーパス東京は、5月24日、2連覇が待たれるプレーオフの準決勝でずっと首をかしげていた。

 対する5位でこの舞台が初というコベルコ神戸スティーラーズのことは、直近のバトルで73-28と圧倒していた。

 今回は、競った。思うに任せぬ展開で、前半終了時に7-3とわずかなリードに止まった。

 しかし、そのまま自滅に向かうことはなかった。最後尾のFBで久々に復帰の松永拓朗は、会場の秩父宮ラグビー場でロッカールームへ戻った心境を明かす。

「前半、競ると思っていた。同点で折り返してもおかしくなかった。後半、勝負だなと」

 落ちついていた。後半も首尾よく加点した直後に向こうの破壊力を食らう展開も、懸命な戻り、カバー、グラウンドワークで、向こうの落球や失策を引き出してゆく。

 我慢強さで決めたのは、17-3で迎えた後半33分である。

 自陣10メートル線付近でフェーズを重ねられるなか、CTBで途中出場の眞野泰地がスティールを繰り出す。腰を落とす。はがされない。

 ここでブレイブルーパスは、後半7つめのペナルティーキックをもらった。攻めた。約2分後、リザーブのHOだった橋本大吾のラインブレイクを絡めて24-3とした。

 眞野は「目の前に(ボールが)あった。流れを、取りたかった。ラグビーは流れのゲーム。悪い流れの時は、それを断ち切るよう意識している」と振り返りつつ、やはり地上戦で奮闘した同級生の名前を挙げた。

「剛のおかげ。普段、見ているので。剛のおかげと伝えてください」

 それまで再三のピンチを脱していたとあり、FLで先発の佐々木剛その人も頷く。

「ハーフブレイクしてきたところ(走者)へ早く仕掛ける思いはありました。僕だけではなく、チーム全体でいいタックルがあった時のカウンターラックを見極める(感覚が強い)」

 かたやスティーラーズの共同主将である李承信は、じりじりと差を広げられる展開に彼我の底力の差を感じたようだった。

「後半になるにつれて、(接点への)2人目のサポートが遅れてブレイクダウン(接点)でプレッシャーを受けてしまった。(攻撃中に)自分たちの求めているピクチャーを作れている(共有できている)なか、最後にミスで終わった」

 そもそも足踏みしているように映った序盤戦でも、勝者は局所的に力を示していた。
 
 SOとして妙技連発のリッチー・モウンガは、2度の「50:22キック」を成功。安全第一と中盤を省略する戦法に倣い、コーナーの隙間を足技で射抜いた。松永の補足。

「(前回のスティーラーズ戦では)僕たちの自陣からのアタックがうまく行き過ぎた。きっと(今回)神戸は修正してくるだろうと予想しました。実際、(前衛の)ディフェンスが厚く、スペーシング(互いの距離感)も取れていた。僕たちは早めにキックを蹴って敵陣でラグビーをしたい、と」

 スティーラーズでFBを担った李は、モウンガを警戒していたからこそモウンガのうまさに脱帽した。

「(片側のWTBと)2人で(後ろ側を)守っていたんですが、片方へ寄ってしまって…。(モウンガのキックの)モーションが小さく、コーナーを狙っているのか、真ん中を狙っているのかが判断しづらかった」

 そのモウンガは後半11分頃、細かいフットワークと防御ラインの背後を貫くショートパントでフィニッシュを演出した。ビデオ判定で軽微な反則を取られてスコアはキャンセルも、ここからスティーラーズが息を吹き返すには至らなかった。

勝ったリーチ マイケル主将は「アタックでも前。ディフェンスでも前」。NO8で献身した末のモウンガ評があまりに簡潔で、周りを笑わせた。

「見ていてわくわくします。試合中でも」

 ミックスゾーンに現れたひとりは植田和磨。スティーラーズの新人WTBだ。この午後は随所に好ランを披露も、前半25分頃にインゴールノックオンを犯してしまっていた。準々決勝を制してこの地に立ったのを踏まえ、実相を言葉にした。

「(ふたつの試合で)メンタルの持ちようはあまり変わらなかったですが、実力的に…。自分にも、責任がある」

 終わってみればスコアは31-3。攻撃が強みのスティーラーズがノートライで終わったのも、一時的に防御で課題のあったブレイブルーパスが敵をノートライに抑えたのも、今季初めてだった。

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