最後もスクラム? スピアーズ対ワイルドナイツ、激闘を振り返る声。

通称「スポッターズ」。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの控え部員が東京・秩父宮ラグビー場のメインスタンドで総立ちとなったのは、わずか1点リードの後半30分頃だ。
スピアーズが自陣でボールを掴むと、その一員たるマルコム・マークスが敵陣ゴール前までキックした。本来は破壊力で荒らすHOの技ありの一手に、スタンドは沸いたのだ。
5月25日。埼玉パナソニックワイルドナイツとの国内リーグワンプレーオフの準決勝は、クライマックスに突入していた。
その直前までハードに身体を張り続けた南アフリカ代表76キャップの30歳は、ここでお役御免となった。「スポッターズ」をさらに興奮させたのは、そのマークスに代わって入ったルーキーだった。
敵陣10メートル線エリア左まで戻された35分。相手ボールスクラムを押し返し、コラプシングを誘う。WTBのハラトア・ヴァイレアに長距離のペナルティーゴールを託し、38分、28-24と引き離した。
「マルコム以上のものを出さないといけないと思ってあの結果を出せたのは嬉しいですが、僕だけのもの(手柄)じゃない。8人まとまってしっかり押せた」
こう後述する江良の背中に声援が降り注ぐ傍ら、ワイルドナイツのHOに入った佐藤健次はうなだれる。
「『ひとりだけ低いスクラム』に対し、(今後は)それに対する組み方もしっかり練習してできれば。引き出しを増やさなきゃいけないです」
189センチのマークスに対し、江良は170センチ。低重心でまとまり、対面を上ずらせるのが特徴的なパックが「スポッターズ」を沸かせたのは、最後も然りだった。
1分半を残し、自陣10メートル線エリアで自軍スクラムをプッシュ。笛を引き出す。
ここで最後に選んだプレーも、スクラムだった。
「圧倒していることは分かっていた。ナード(SOのバーナード・フォーリー)がそれを選択して、僕らも『組もう』となりました」と江良。まもなくSOのバーナード・フォーリーがタッチラインの外へ球を蹴り出し、準々決勝からの2連勝で2季ぶりの頂点に近づいた。
チャンスとピンチへの感度で勝った。
ファーストプレーで後衛の隙を突いてチャンスを得ると、自慢の大型FWの推進力を活かして先制した。
パワフルな面々は守りでも効いた。12―10で迎えた前半22分頃には、自陣ゴール前まで迫られながらも複数フェーズを耐える。最少人数で接点に圧をかけ、防御の枚数を揃える。
最後はルアン・ボタ、デーヴィッド・ブルブリングのという身長2メートル前後の両LOが、中央へ突っ込んできたランナーを羽交い絞めにした。ワイルドナイツの反則を誘った。
ワイルドナイツの攻めをぎりぎりのところで跳ね返す傍ら、敵陣22メートルへ迫れば確実にスコア。22―10で終えた前半は、対する左PRの稲垣啓太にこう言わしめる内容だった。
「ボールロストが多かったように感じます。スコアできる場所でできなかったことが、敗因でしょうね」
ハーフタイムを経ればワイルドナイツが接点への寄りを厚く、アタックラインを流動的にして逆転に迫る。後半11分、17分と連続フェーズでスコアしたのはその流れからだ。
25-24。点差は徐々に縮まる。しかし、スピアーズのNO8として献身のファウルア・マキシは泰然自若としていた。
「コネクションを失うと、ワイルドナイツはどんどん来る。もしうまくいかなくても、次!」
26分。ターンオーバーを決めた直後にカウンターアタックと鋭いキックを食らってトライライン前にくぎ付けとなるも、ラインアウトを起点とした計8フェーズをしのぐ。落球を誘う。
「スポッターズ」が絶叫のファインプレーがさく裂したのは、その4分後のことだった。敗れた陣営は意気消沈。ロビー・ディーンズ監督は「(後半は)アタックマインドセットを持っていこうと話しました。それは達成できたが、(スピアーズを)上回れなかった」と脱帽した。