国内 2025.05.02

深まるチーム愛。李承信[コベルコ神戸スティーラーズ/CTB/共同キャプテン]

[ 明石尚之 ]
深まるチーム愛。李承信[コベルコ神戸スティーラーズ/CTB/共同キャプテン]
今季もインサイドCTBを中心にSO、FBもカバーする(撮影:福地和男)

 コベルコ神戸スティーラーズの李承信(り・すんしん)が、大きな成長機会を得ている。

 2020年に入団して5シーズン目を迎えた今季。ブロディ・レタリックとの共同キャプテンの打診を受けたのは昨年の10月頃だった。

 ケガで秋の代表活動には参加せず、束の間のオフが明けた日だ。
 就任2季目のデイブ・レニーHCに呼び出された。

「キャプテンをしてみないかと。少し迷っていたのですが、15分後のチームミーティングで発表するから、と言われました(笑)」

「いつかはこのチームのキャプテンに」の思いは以前から持っていたが、「まさかこんなに早く」が率直な感想だった。

「昨シーズンは正直、チームよりも自分にフォーカスしていました。そんな自分が果たして務まるのかという心配の方が強かったです」

 兵庫県選抜(中学)、大阪朝高、高校日本代表、ジュニア・ジャパンでもキャプテンを務めるなど、その経験は豊富。しかし、「リーダーシップに関してはすごく苦手意識がある」と明かす。

「あまりリードするタイプの性格ではないというか…コミュニケーション力や発言力もない。絶対にリーダーになるんだ、という思いは昔から強くはなかったです」

 しかも、自身は24歳と若い上にチームメイトの年齢の幅は広く、海外出身選手も多い。これまでとは勝手が違う。
「どういうリーダーになるべきかはすごく考えた」という。

 レンズ(レニーHCの愛称)からは、「グラウンド内外でみんなのロールモデルに」と言われていた。

「レンズもよく話していますが、自分たちが誰を代表して戦うのかがチームとして一番大事。街の方、会社の方、隣にいるチームメイト…このクラブが誇りに思ってもらえるようなプレーヤーにならなければいけないと思いました」

 目指すべき方向を決めたとはいえ、試行錯誤の日々は続いている。
 練習や試合でチームを引っ張るのは、オールブラックス109キャップのレタリックやベテランの日和佐篤であることが多い。

「すごく良い経験をさせてもらえていますが、自信を持ってチームを引っ張れているとはまだ言えません。もっと成長して、2人をもっとサポートしないといけない」

 ただ、よりチームを俯瞰して見る時間は増えている。
「まだまだ良いメッセージを伝えられていない」と自身に厳しいが、練習を終えた際のハドルで「何をチームに発信するか」の最適解を探り続けている。

 チームにもベクトルを向けるようになったからこそ、チームへの愛も深まった。
「年々、このチームで勝ちたいという思いは強くなっているし、キャプテンになってからはより一層強くなってきたと感じます」

 それが垣間見えたのは、第14節の東芝ブレイブルーパス東京戦。
 28-73と大敗を喫した試合後の会見に現れ、時折、声を詰まらせながら質問に答えた。

「負けた試合は心から悔しく思いますし、逆にどんな勝利でも喜べます。チームを勝たせる、というのは難しいかもしれませんが、本当にチームに貢献したいですし、チームが目指すべきプレー、態度はキャプテンとして示さないといけない」

 そんなスティーラーズの良さを問えば、「にぎやかなチームではありませんが、お互いがお互いのためにハードワークできる」と話す。

「試合のきつい状況でも、もう一歩、二歩、前に出られるチームだと思います。それは去年よりも強くなっています」

 そうしたチームカルチャーを、レンズが築いてくれたと感謝する。
 結束を強めるための仕掛けを、随所に落とし込んでいるのだ。

 試合前は「お茶する」のが恒例。フロントロー、バックロー、ハーフ団といったミニグループに分かれ、交流する時間を作る。

 選手、スタッフの家族を頻繁に呼び、BBQなどが開かれる。
 レンズ自らウインナーを焼き、ホットドッグを作るという。

 月曜日の朝のミーティングでは、トンガやフィジーなど各選手の母国の歌をみんなで歌う。
 そこでギターを弾いて音頭を取るのも、レンズだそうだ。

「コネクションがどんどん強くなっているのを感じます」

 自身もレンズと出会い、「成長できた」と実感する。

「レンズは自分の良いところ、改善すべきところをストレートに伝えてくれます。より一層、ラグビーに対してプロフェッショナルになったと思いますし、練習、試合への心構え、それまでの過ごし方、準備の大切さを学んでいます。チームファーストで過ごせているか、を常に考えるようになりました」

 プレーオフを前に、あらためてコーチ陣がチームに求めているのも身上のハードワークだ。
 それはメニューからも伝わり、話を聞いた4月末は「今シーズンで一番と言えるほどハードで強度の高い練習だった」という。

 大敗を喫したブレイブルーパス戦後も、自信は失っていない。「今まで積み重ねてきたものは間違っていない」と強調する。

「激しさ、ハードワークといった神戸の土台の部分は変わらない。ただ、チームのジャージーに誇りを持たないといけません。誰のために戦うのかという意識は、ゲームメンバーを筆頭に強く持たないといけない。そのマインド、姿勢さえ作れれば、本来の自分たちのラグビーができる」

 スティーラーズはレギュラーシーズン2試合を残し、リーグワンでは初のプレーオフ進出を決めた。
 2018-19シーズン以来の王座奪還へ、頂点まで駆け上がりたい。

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