国内 2025.03.26

指揮官は怖くていい。山下裕史が語るスティーラーズのいま。

[ 向 風見也 ]
指揮官は怖くていい。山下裕史が語るスティーラーズのいま。
スクラムに臨む山下裕史[神戸S]©︎JRLO

 コベルコ神戸スティーラーズは3月23日、東京・秩父宮ラグビー場での国内リーグワン1部・第12節で東京サントリーサンゴリアスに39-37で勝利。ラストワンプレーでの逆転勝ちで12チーム中5位をキープした。

 もっともインサイドCTBとしてフル出場した共同主将の李承信は、「選手たちのフラストレーションがたまるシーンが多かった。自分たちからチャンスを手離していた」。自軍ボール時にエラーを重ね、前半25分に8-20とされたのを反省した。

 対するサンゴリアスは戦前まで2連敗と苦しんでいた。故障者も抱えていた。

 その前提条件と序盤の試合展開とを重ね合わせたのは、スティーラーズの右PRである山下裕史だ。

「なめてかかる相手ではないけど、マインド的に『〇〇がおらん』と心の隅っこでは思っていたかもしれないですね」

 厳しいスタートを強いられながらも追い上げ、勝ち越すことができた要因のひとつは、スクラムで優勢に立てたことだ。その領域での殊勲者が、最前列右の山下だった。

「ヒットで相手に体重をかけられていたのはよかった。(FW)8人全員が自信を持っていけた」

 対するHOの堀越康介主将に、こう言わしめた。

「組みながら駆け引きをしてくる。ずっと喋ってくる。レフリーに対しても、いい影響があると思います」

 通称「やんぶー」は「言い過ぎです、あいつは」と微笑んで応じる。

「1番(相手の左PR)も、僕も互いにスペースを取りたい。ただ、過度に(アピール)するとうまいこといかない。レフリーには何も喋っていないです」

 するとちょうど隣にいた、旧知の仲であるサンゴリアスのスタッフに冗談交じりに「過度です」と水を向けられた。高い声で笑った。

「ははは。映像、見ようか?」

 身長183センチ、体重120キロの39歳は、これまで日本代表として51キャップを取得。特に2015年には、ワールドカップイングランド大会で歴史的3勝を挙げた。予選プール初戦では、一昨年までに通算4度優勝(当時2度)の南アフリカ代表を34-32で破っている。

 栄華を掴んだ時代の指揮官はエディー・ジョーンズだ。

 昨年、約9年ぶりに復職のヘッドコーチは、ハードな練習を課すことで知られた。

 イングランド大会直前期の選手は、宮崎のキャンプ地にほぼ缶詰め状態。毎日、早朝から1日2、3部練習は当たり前といった生活を余儀なくされた。

 イングランド大会を終えて帰国して数か月後、山下は目を細めて述べた。

「不思議なもので、帰国後の報道(選手の声など)を見ても『エディーさんが監督でよかった』という声はあまり聞かれないですよね。皆、別にエディーさんのことは嫌いではないんです。僕も、彼に勝たせてもらったと思っています。しんどいことをしたから勝てた、と。でも、無茶苦茶なことをやっていたから…」

 険しい道を駆け抜けた勇者たちが次々とスパイクを脱ぐ中、山下は、いまなお現役生活を続ける。

 新人時代からプレーするスティーラーズでは昨季、デイブ・レニーヘッドコーチが就任。かつてチーフスやオーストラリア代表を率いていたボスは、タフなセッションと部下への鋭い眼光で知られる。山下はこう見る。

「いいと思います。ヘッドコーチが怖いのは、一番いい。選手も、コーチもぴりっとするので」

 現体制初年度にあたる昨季は、12チーム中5位。その前のシーズンが9位だったのを鑑みれば見事に躍進したと言える。

 新シーズンにおいても目下5位。サンゴリアス戦では2連勝を飾ったとあり、序盤戦から中盤戦にかけて調子を上げてきたように映る。

 一時、攻め方に変化をつけた時期にやや混乱したものの、ベテラン組を軸に原点回帰を試みたのがよかったと山下は言う。

「レンズ(レニー)の1年目に『いいな』と思っていたところ、今季がスタートして少し違うことをし出して、日和佐(篤=37歳のSH)が筆頭に(生来の形に)戻していまがあるという感じです」

 30日も秩父宮へ訪れる。リコーブラックラムズ東京との第12節のためだ。

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